幸せ、とは。 | ナノ


▼ 01

「待てや、こら!」
「うるっさい!ついてこないで!ほんと、無理」

なんで、なんでこうなってしまったんだろう。お酒を飲んで全力疾走なんてするもんじゃないな。気持ち悪くなってその場にしゃがんでいると侑がペットボトルの水を差し出してくる。悲しくて、恥ずかしくて、辛くて涙が出た。

ことの発端は、木兎が主催した飲み会だった。

「なんや、紹介したい子おるから来いゆーといて俺のファンの子ちゃうやん」
「俺の親友の苗字!んで、こっちがチームメイトのツムツム!」

ああ、宮さんか。木兎からよく聞かされる名前だし、そもそも試合を観に行ったら大体周りは宮さんのファンで溢れかえっている。宮さんはファンサービスも多く、男女問わず愛されてる木兎とは違い女性ファンが多いイメージだった。

「どうも〜、苗字名前です」
「名前ちゃんな、よろしく〜。侑でええよ」

第一印象、と言えるのかわからないが「チャラい」の一言に尽きる。なぜ木兎が今日の飲み会に宮さんを連れてきたのかは最後まで謎だったが木兎の行動が謎じゃない方が少ないのでそれはそれでいい。特に盛り上がるわけでもなく、普通に飲んで普通に食べて、普通に解散するはずだった。

「じゃあ俺今から彼女んち行ってくるから、ツムツム苗字のこと送ってやってよ!」
「え、いいよ!そんな遅くないし」
「いーや!ダメだ!危ない!」
「俺はええよ。最寄りどこなん?」

最寄りを伝えると通り道らしく、大人しく送ってもらうことになった。申し訳なさすぎるけど、宮さんは案外嫌がってはなさそうなので安心する。
木兎と反対のホームなので、駅で別れ「行こか」と宮さんが長い足で歩き出す。木兎と歩く時はいつもわたしが早足になるのだが、宮さんとはそうならない。

「すいません...送ってもらって」
「全然ええよ。名前ちゃんとゆっくり話したいなって思てたし」
「えっ...と」
「そんなあからさまに困んなや」

関西人のノリがまだよくわからず、ぶっきらぼうな言い方に聞こえるが宮さんの表情はずっと柔らかかった。

「あが、りますか?」
「自分そんなこと言うてホイホイ男家にあげたら知らんで」
「え!今のは、宮さんが家にあげろって言ってきたのかと...」
「俺も、家入ったら何するかわからんで?」

正直言って恋愛経験の乏しいわたしはここまで言われてもイマイチ当事者としての自覚がなかった。宮さんの顔が近づいてきて息を呑む。

「名前ちゃん、ぼっくん辞めて俺にせーへん?」 

宮さんが何を言ってるのか、頭では理解していたが感情が追いつかず完全にフリーズしてしまう。そんなわたしを宮さんは面白がって目の前で手を振り「おーい、生きてる?」と茶化してくる。
一体どこから突っ込めばいいのか...と悩んでいると宮さんがわたしの手にあるスマホを取り上げて「ロックナンバーは?」と尋ねてくる。馬鹿正直に答えるとLINEの登録を勝手にされていた。

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