牛島選手の追っかけを辞めたい。 | ナノ

+天童



若利くんの連休に合わせて休みを取り、こうして会うのも何度目かになる。まだわたしは仙台に行ったことないし、若利くんも東京での仕事もあるようなので会うのは決まって東京だった。

「あー、ごめん。その日ね、会えないこともないんだけど...ちょっと行きたいところある日なんだよね」

若利くんが提案してくれた日程と、自分の予定が重なっていて今月はゆっくり過ごすのは無理かもしれないなと残念に思う。

「そうか...俺の友人がパリから帰国していて、なまえも連れて行きたかったが俺1人で行くことにする。夜は空いているか?」
「うん!夜は大丈夫だよ〜!じゃあ今回は夜デートだね」
「ああ、楽しみだ」

付き合ってから気付いたことが何個かあって、まず若利くんは思っていたより色んなことを言葉にして伝えてくれる。会った時は必ず褒めてくれるし「会いたかった」と言ってくれる。

今日も夕方から若利くんとデートなので久しぶりに朝から気合を入れて準備をして、先に楽しみにしていた百貨店へと向かう。

そう、今日はわたしの大好きな「ショコラティエSatori Tendo」がパリから帰国していて、催事を開いている。これは、行くしかない!と事前に調べてテンドウさんが店頭に立つ日を抑えた。だって、オタクとして好きな人には直接会いたいし話したいし、好きって言いたいもん!なんて思いながらサインをもらうべく手当たり次第にショコラをカゴに入れ会計を済ませてテンドウさんが囲まれているところにぐいぐいと入っていく。

「テンドウさん!」

そう声をかけると他のお客さんのサインを終えたテンドウさんが「はいはーい」と振り返り、わたしの目が合う。

「あ!!!!!!若利くんの彼女ちゃん!!!!」

とその辺に居る人は全員聞こえたんじゃないか、くらいの声量で話され周りは当然だがわたしも固まって思わず手に持っていたショコラの箱を落としそうになる。

「え、?」
「だから!若利くんの彼女ちゃんだよね?え?合ってるよね?人違い?」
「あ、合ってます...!」
「サイン?はーい、名前なんだっけ?」
「なまえです...」
「なまえちゃん、っと」

頂いたサインを見ると「若利くんとお幸せに」とハートマークまで書かれていてわたしはその箱を見ながら頭が混乱して意味がわからず立ち尽くしてしまっていた。

「てか若利くんと一緒に来たんだよね?彼女ちゃん来れないって若利くんから聞いてたから残念だなーって思ってたけど!用事無くなったの?若利くんは?サインしてあげるヨ!いらないか!」

わはは、とテンドウさんは一人で笑っているが本当にわたしが本当に何も返事を出来ずにいたのでやっと話が食い違っていることに気付いてもらえた。

「...あれ?もしかして、若利くんから聞いてない?」
「あ、ハイ」
「えっ...?」

2人で見つめ合っていると、痺れを切らした他のサイン待ちの方が声をかけ始めてわたしは結局テンドウさんに何も言えないまま列からはみ出てしまった。

忙しそうなテンドウさんと手元にあるショコラを見比べ、ただ呆然としているとスタッフさんから声をかけられ百貨店の中の控室に通されることになった。テンドウさんが店頭に立つスケジュールは30分ほどと公表されていたこともあり、体感時間は5.6分でテンドウさんと再び対面する。

「ごめんネ!お待たせ!」
「いや、!えっと、すいません、、?」
「今から若利くんとご飯行くんだけどなまえちゃんも来るよね?」
「わ、かとしくんとですか?」
「そう!俺らマブダチなんだよ〜」

そう言ってテンドウさんはさくっと着替えを終え、百貨店を後にしてタクシーに乗り込む。タクシーの中で若利くんに連絡しようとスマホを出すが「サプライズにしよ〜よ!」と茶目っ気のあるテンドウさんの笑顔にやられそっとスマホをカバンの中にしまった。

「それにしてもさ、若利くんも隅におけないと思わない?公開プロポーズでショ?」
「あ、ご存知で...?」
「もちろん!俺あんなに愉快な若利くん見たのはじめてだったよ!なまえちゃんサイコー!」
「わたしもまさかあんなことになるとは思ってなくて...」
「てかなまえちゃん敬語じゃなくていいよ?マブダチの彼女ってことは俺らもマブダチじゃん?」

そこから天童さんと仲良くなるのに時間はかからず、若利くんの高校時代のチームメイトであることも発覚した。高校生の若利くんのことは全く知らないので立て続けに質問をぶつけるが天童さんは嫌な顔一つせずに答えてくれて本当にいい人なんだなと感じた。
もちろん、天童さんのファンであることも伝えておいた。オタクにとって抜かり無し。

話し込んでる間に、若利くんと天童さんが待ち合わせをしているお店に着く。どうやら若利くんはもう到着しているらしく、天童さんの後ろにわたしが続いて店内へと足を進めて行った。

「若利クン!お待たせ〜!」
「ああ、久しぶりだな」
「じゃじゃーん!本日のスペシャルなゲスト、俺のファン!なまえちゃんでぇーす!」
「や、やっほー」

天童さんの後ろからひょこ、っと顔を出してみると普段あまり激しく表情が変わるとこを見れない若利くんの顔が一瞬で驚いた表情になる。

「すまない、なまえは俺のファンだ」
「そっち?!」

ゲラゲラと涙を流しながら笑う天童さんを尻目に、若利くんがスマートに自分の横にある椅子を引いてわたしをエスコートしてくれる。え、好きなんだけど...!「ありがとう」と笑顔を見せると若利くんが硬い表情のまま話しかけてくる。

「天童がバレーをしていたのは高校の時だが、その時からファンなのか?でもお前はあの時はじめてバレーを見たと」
「待って!違う!バレーの話じゃないから!」
「ほんっと、若利クンってサイコーだよね」

天童さんはさっきよりも笑いのツボにハマってしまったのか、もうほとんど呼吸も出来ずにひぃひぃと笑い続けていた。天童さんがこう言う状態になっているのを若利くんは特に気にすることもなく「今日も綺麗だ」と普段通り言ってのけるので、わたしも呆気に取られて思わず「ありがとう」と返してしまうがどう考えてもおかしい状況なので誰か助けてください。


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