小説 | ナノ


▼ 飛雄に服装をダメ出しされる

季節は秋。一年中で一番おしゃれが出来て可愛い季節でもある。シースルーのトップスにマーメイドスカートを履き、どこからどう見てもデートに行く女の子が完成した。飛雄との待ち合わせまであと少し、急いでブーツを履き玄関の姿見でリップだけ塗り直し、家を出た。

「すげぇ可愛いっす」

と、言われる準備だけをしていたので「そんなことないよ、飛雄もかっこいいよ」なんて言って腕を組んで久しぶりのデートを楽しもう。だなんて、浮かれたわたしの気持ちを飛雄は察するわけもなく。待ち合わせ場所で合流した途端、人気の少ないところへ連れて行かれる。

「えっ、なに?!と、飛雄!」
「黙ってください」

真剣な顔をした飛雄に、割と強引に腕を引かれこんなこと今までされたことがなくて思わずときめいてしまう。

(…もしかして、いつもより少し大人っぽい今日のコーディネートで飛雄を誘惑しちゃったとか?)

そんなわたしの考えの遥か斜め上をいくのがわたしの彼氏、影山飛雄である。

「下着、透けてますよ」

珍しく真剣な顔でわたしの顔を見つめてきたかと思えばそんなことを言われ。咄嗟に言われた言葉が理解出来ず、飛雄のことを無言で見つめてしまう。飛雄はわたしが聞こえなかったと思ったのか身を屈めわたしの耳元に唇を寄せ「下着透けてますよ」と一言一句先程と変わらぬ台詞を告げた。

「ち、ちが!」
「違くねぇっす。とりあえずこれ上から着てください」

否定の言葉を聞くより早く、飛雄が自分のシャツを脱ごうとする。その腕を素早く掴み「脱がなくていい!」と伝えるが飛雄は一向にわたしの話を聞こうとしてくれない。

「飛雄、聞いて!違うの!」
「何が違うんすか」
「これはそういう服なの!で、見えてるのも下着じゃないの!」

理解出来ない、とはっきり顔面に書かれていて思わず吹き出すと飛雄の眉間の皺がいっそう深くなり怒らせてしまったかなと不安になる。

「今日の服はね、こういう透け感のある素材でインナーが透けてるのも敢えてなの。オシャレで着てるの!」
「こんなエロい服がオシャレなんすか?」
「だから、健全なんだってば!エロくない!」
「はあ...?でもこれ、いつも名前さんがしてるブラジャーと何が違うんすか?」
「は?!全然違うんだけど!」

ひどい、ひどすぎる...!飛雄に一度だって同じ下着をまだ見せたこともないし、毎回出来るだけ違う色やデザインの下着を着けてたのに全く伝わってなかったとは...と一人で落ち込む。いや、飛雄にそういうことを期待したわたしが間違っていたなとすぐに反省して気を持ち直した。

「だいたいこの間エッチした時は...って、そんな話はどうでもいいの!とにかく、今日の服装はオシャレだから心配しなくていいです。わかった?」
「っす」

唇を尖らせながらそう答えてくる飛雄。納得はしてない様子でいつもより幼く見え、可愛かった。人気のない路地裏をいいことに、ぐっと背伸びをして飛雄にキスをすると一瞬で表情が和らぐ。大変わかりやすくて、可愛い。

「ねぇ、飛雄。他に言うことあるよね?」
「なんすか」
「...も〜!こういう時は、待ち合わせで会った時に可愛いって言うものなの!」
「ああ...可愛いっすよ」
「もうちょっと感情込めてくれる?!」
「いやなんか、普通に可愛いんで。なんつーかその、わざわざ言うのもあれかなって」
「わざわざ!言うの!ずっと!何回も!」
「うす」

さらり、と言われた飛雄の甘い言葉に一瞬絆されそうになるがなんとか堪え、一つまた飛雄に女心をインプットさせることに成功する。飛雄は一度言ったことは覚えてくれるし、こうして欲しいと伝えたことは努力してくれるタイプだった。バレー以外に興味関心がないと思い込んでいたが、意外な一面にわたしは驚きもあるが何より嬉しかった。

「飛雄は今日もかっこいいよ!」
「アザス」
「どこ行こっか?」
「腹減りました」

ごく自然に飛雄の腕を取り、腕を絡めて歩くと飛雄もそれを当たり前のように受け入れてくれる。その何気ない当たり前、が嬉しくてわたしは顔の筋肉が緩むのを感じた。にこにこと、機嫌よく飛雄の腕に捕まりながら歩いていると飛雄の左手がわたしのお尻に触れる。

「えっ?!何?」
「いや、パンツ履いてるのか気になって」
「気になっても普通触らないでしょ」
「すんません」

悪いと思ってるのか思ってないのか。飛雄の手はその後も何度か隙を見てはわたしのお尻に触れ、その度に飛雄のことを叱るが効果はこれといってないようだった。

「ねぇ、普通に履いてるから触るのやめて?」
「......履いてますか?」
「なんでそこでわたしが嘘つくの」
「いやだって、ケツじゃないですか」
「下着のラインが響かないように、Tバックなの!わかった?!もうほんと、外でそういうのやめてってば!」

飛雄の手の甲をつねって怒ると、やっとわたしが本当に怒っていると気付いたのかしゅんとしながら「すんませんした」と頭を下げてくる。外で彼女のお尻を撫でてはいけない、と飛雄に今日は教えなければならない。

「ねぇ、飛雄」

何度か名前を呼ぶが、反応がない。信号待ちのタイミングで飛雄の腕を引いてもう一度声をかけるとやっと目が合った。

「、っ...」
「な、何その反応」
「いや...今、名前さんがTバック履いてるって想像したら興奮しました」

これを冗談ではなく、本気で、しかも真面目に言ってくるから影山飛雄という男はタチが悪い。言われたわたしの顔も一瞬で真っ赤に染り上がってしまい、なんだか初々しい空気でのデートになってしまった。

飛雄に可愛い、と言ってもらいたかっただけなのに。わたしは飛雄に「...確認してみる?」だなんて挑発を思わずしてしまい、後で後悔するのだった。



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