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▼ 飛雄とハロウィン

仕事柄、なかなか一緒に過ごすことができない飛雄と今日は久しぶりに休みが重なり家でゆっくり過ごすことにしていた。せっかくなので、ハロウィンでしよう思っているコスプレに着替える。飛雄に披露してあげようと「見て見て!」とテンション高く声をかけたわたしがバカだった。

「乳、はみ出てますよ」

そう言って飛雄はまた筋トレを再開し、わたしへ目線を向けたのはその一回だけだった。

「はあ?!コメントそれだけ?!」

心底面倒くさそうにもう一度わたしへ目線を動かし「寒そうっすね」と真面目な顔をして言ってくる。違う、そうじゃない。普通彼女のこんな姿見たら今すぐベッドに連れ込んだり、そわそわしたりするんじゃないの?!と悶々とした怒りを抱え、わたしは筋トレ中の飛雄の膝の上に跨った。

「ねえ、他に感想ないの?」
「......?」
「そんな可愛い顔したって許さないよ!」
「いや、可愛いのは名前さんですよ。俺に使うのは間違ってます」
「え、あ...ありがとう?」
「どういたしまして」
「違う!そうじゃなくて!」

危うく飛雄の素直さに当初の目的を忘れそうになる。そう、今回の目的は「彼女が露出の激しい服を着たら彼氏はどういう反応をするのか」という友達同士での彼氏へ対するドッキリのようなものだった。

「これ見てどう思ったの?」

もはやドッキリでもなんでもない。ただの誘導尋問が始まる。

「...もしかして、これ着て出かけるんですか?」
「え?」

いまいち噛み合ってない会話にぽかん、としていると飛雄が急に近くにあった畳んだばかりのバスタオルをわたしに巻き付けてくる。

「これはこれでエロいっすね」

オフショルダーの服を着ていたので、風呂上がりのような上半身に何故か飛雄は嬉しそうに微笑む。ああ、顔が良い。ずるい。そんな言いがかりにも等しい批判を心の中でしているとは飛雄は知らずにわたしにキスをしてくる。

「で、こんなエロい格好して外出る気なんすか?」
「いや、外は出ない、けど」
「なんすか。顔、にやけてますよ」
「飛雄...もしかして、わたしがこの格好で外出たら嫌?」

ぐっ、と飛雄の眉間に皺が寄ったのがわかり、つい指で押してみると迷惑そうな顔で見られる。その顔すら格好良くて余計に頬が緩むのが自分でもわかってしまった。

「あー...名前さんの、考えてることわかりました」
「嘘だ」
「嘘じゃねぇ、っす」
「飛雄がわたしの考えてること当てたことなんかないじゃん」

至近距離の飛雄の頬を軽く引っ張りながらケラケラ、と笑っていると仕返しだと言わんばかりにわたしの頬をぎゅむ、っと両手で潰してくる。

「なによ」
「試したんすよね、俺のこと」
「ためしてない」
「ヤキモチ妬くか、試しましたよね」
「なんでそんなとこだけ鋭いの?!」

頬を潰されたまま、驚いた声をあげると飛雄は膝の上に座っていたわたしを持ち上げてぐっと自分に近づけた。正面から抱きしめられたわたしはただ嬉しくて、飛雄の首に腕を回して頬にキスをする。

「怒った?」
「怒ってません」
「バスタオル取っていい?」
「...どこ見ていいかわかんねぇから、だめです」
「見ていいよ?飛雄のために着てるんだし」
「触りますよ」
「いいよ?」
「......知りませんよ、俺は」
「飛雄が満足するまでどうぞ?」

そう笑って飛雄に伝えると、飛雄は盛大にため息を吐きながら「絶対名前さんは、後から怒ります」と謎の自信を持ちながら、わたしに巻きつけていたバスタオルを外していく。

「あ、ねぇ!飛雄」

そう声をあげると、ここまできてわたしが待ったをかけると思ったのか心底嫌そうな顔をして「なんすか」と返事をする。

「トリックオアトリート!」
「お菓子ないっすよ」
「じゃあ悪戯しちゃお!」
「そんなことしなくても俺は名前さんにいつも振り回されてます」
「え?!それ褒めてないよね?!」
「うるせぇから黙ってろ」

あ、好きだ。と思った時にはもう飛雄のスイッチは完全にオンになっていて。わたしはそのまま晩御飯を食べることすら許されず「お腹空いた!飛雄のバカ!」と飛雄の予想通り怒ることになってしまった。案外飛雄はわたしのことを良く知っているのかもしれない。



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