小説 | ナノ


▼ 誕生日

「オカン!!!!」
「おい、ツム!」
「なんやサム!」
「俺より先に言うたらしばく!」
「はあ?!なんでやねん早いもん勝ちやろ!」

そんな小競り合いをしながら、誕生日だというのに顔も洗わずに2人は母親の姿を探していた。

「アンタら顔洗ってきぃや」

5歳の頃から毎年繰り返される競争も、5年目になる。去年も一昨年も治が勝っていたが今年は侑が優勢だった。

「オカン!あんな!」
「先に、顔洗えた方な」

何が、とも言わずに双子たちは事態を把握しこれまた競争しながら洗面台へと向かう。母親は朝食の用意をしながら今年はどっちが先に言ってくるのか少し楽しみにしていた。バタバタと廊下を走る音が聞こえ、先に顔を出したのは侑の方だった。

「オカン!俺らのこと産んでくれてありがとお!」
「ん、2人とも誕生日おめでとう。今年も一年大きぃ怪我も病気もせんとおっきなれてよかったなぁ」
「また今年も一年よろしくお願いします!...ほんでな!」

侑の話し方で、前半は建前だと言うのは誰から見ても明らかだった。だが、あまりにもキラキラした目で母親に訴えかけるため思わず母親も吹き出してしまう。

「アンタなぁ、もうちょいそれっぽく言わんかい」
「オカン!!!俺らのこと産んでくれてありがとう!!」
「おいサム!もう今年は俺が先言うてんから割り込んでくんなや!しばくぞ!」
「はあ?!俺はフツーに!オカンに言いたいだけやし」
「はいはい、もうええから。侑、何食べたいん?」

本意気ではない口喧嘩から殴り合いの喧嘩になるのは日常茶飯事で。誕生日の朝くらい喧嘩をせずに過ごして欲しい、と母親は話を切り上げ侑の要望を聞いてやることにした。

「晩飯は寿司がいい!ほんで、ケーキはチョコにしてな!」
「寿司な、ほんなら頼んどくわ」
「...俺も今年はチョコがええって思っとった!」
「ほんまに?!俺らすごいやん!」
「変なとこで双子パワー使わんといて。はい、朝ごはん出来てるから食べ」

2人はいつもの自分の席へと座り手を合わせ「いただきまーす!」と声を揃えて目の前のご飯を猛スピードで消費していく。その様子を見ながら、母親は自分が出産した時の日を思い出しているようだった。初産で双子、という予想していなかったマタニティライフに戸惑いながらも2人はすくすくと胎内で育ち陣痛からほどなくして産まれてきてくれた2人。事あるごとに競争しながら、2人で成長してきてくれた。今日という日が特別なのは何も双子の2人だけではなく、母親にとってもかけがえのない大切な日だった。

朝食を終え、まるで何かに追われてるかのように2人はまた競争しながら着替えてランドセルを背負い玄関へと走って向かう。

「「行ってきます!」」

と、元気よく母親に告げ玄関のドアへ手をかけた時「2人とも、産まれてきてくれてありがとう」と母親は双子に微笑む。

「おう!ええで!」
「大きなったら俺らがオカン楽にしたるから期待しとってや」
「そんなん俺やってサムに負けへんし」
「俺かてツムには絶対負けへん!」
「あ〜もうええから、はよ学校行ってき。遅刻すんで」

そう言って見送った双子が、まさか自分で店を出すようになり1番の客を両親に選ぶような息子に育ち、東京オリンピックの1番良い席に両親を招待する息子に育つ。そんな未来になることを、母親はもちろんまだ誰も知らない。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -