▼ 影山飛雄のロック解除は誕生日
「ちょっと、LINE見て」
「あ?俺今テレビ見て…」
「いいから!あの子返事遅いといつも怒るじゃん?お願い!」
「あー、アイツか」
アイツ、と呼んでいるが飛雄はわたしの友人に会ったこともないし話したこともない。ただ、一方的にわたしがこうやってよく話すから覚えてしまったようだった。
面倒くさそうにリビングからキッチンへ来て、わたしのスマホをまるで自分のスマホのように顔認証をしてロックを解除する。
「来週いつ空いてんのか聞かれてる」
「えー、カレンダー見て?」
「…火曜はなんもねぇぞ」
「じゃあ火曜って返事しといて」
「何で俺が…」
「今飛雄のご飯作ってるの〜」
そういうと、飛雄は「わかった」とわたしのスマホで友達に返事をしてくれる。文句を言いながらも最後にはわたしのワガママを聞いてくれる飛雄は不器用で口下手だけど、誰よりも嘘がなくて優しい人だといつも思う。
これでいいか、と言いたにわたしのスマホをぐいっと目の前に差し出してくる。
「うん、ありがと。助かる」
飛雄はまたスマホを元あった場所に戻して、リビングへと戻ろうとするのでもう一度名前を呼んで引き止める。振り向いた時にちょっとダルそうにするのやめな?
「ありがと〜!のちゅーしてあげるから、屈んでこっち来て?」
「いらねぇ」
「はぁ!?いるでしょ?ほら、早く」
「…」
背の高い恋人は、屈んでもまだ背が高い。もはや膝立ちしてもらうレベルだがなんとか頬に届いて「ちゅ」と可愛い音を立ててキスをする。
「はい、もういーよー」
「あ?こっちだろ」
え、と思った時には飛雄が唇にキスをしてきていて顔がにやけてしまう。ずるい。だってこんなの王子様みたいじゃん!と照れていると、してやったりの顔で飛雄がリビングへと戻っていった。後ろから見た飛雄の耳も真っ赤で、照れるくらいならやらなきゃいいのに、と可愛げのないことを無理やり考えて自分も熱を冷ます。
ご飯を食べ終わり、2人並んでテレビを見ているとさっきのグループLINEの通知が鳴り続けている。飛雄はもう眠いのか少しうとうとしながらわたしの体を抱いて離さなかった。
「ねぇ、飛雄」
「ん」
「スマホ、とって」
「またかよ」
「だってこの体勢じゃテレビ届かないもん」
飛雄は本当に眠たいのか、わたしのスマホではなくその横にある自分のスマホを手に取りわたしに手渡してくる。2人ともスマホケースをつけていないため、わたしもロック画面を見るまで気が付かなかった。
「飛雄、これ飛雄のだよ」
「…」
わたしのことを抱きかかえたまま飛雄は夢の世界に片足を突っ込んでいるようで反応が鈍い。それにしてもわたしの顔認証も飛雄のスマホに登録しているはずなのに、なんで開かなかったんだろう。そんなことを思いながら、飛雄の名前を何度か呼んで夢の世界から呼び戻す。
「寝るならベッド行こ?」
「アラーム、明日、6時」
「わかった…あ、待ってなんか顔認証調子悪くて、番号何?」
「…………誕生日」
何その間、と思いながらも「1222」を押すが番号が違いますとスマホに怒られる。
「ねぇ!違うって、寝ぼけてる?忘れた?」
「俺のじゃねぇ……お前の」
眠たいのかと思ったら、どうやら飛雄は恥ずかしがっているようで顔を下から覗こうとすると大きな手で拒まれる。
「え?わ、わたしの?」
「お前しかいねぇだろ、このボケが」
「口悪!」
「早くアラームセットしろ。寝坊したらお前のせいだからな」
「ふふ、飛雄…わたしの誕生日なんだぁ」
「うるせぇ落とすぞ」
「ちょ、っと!やだ!やめてよ!」
飛雄は結局わたしを抱きかかえたまま立ち上がり、そのままベッドへと向かう。待って?わたしのスマホ結局テーブルの上のままなんですけど…。そんな苦情も恥ずかしそうに照れ隠しで口の悪くなっている飛雄を見たら、どうでもよくなってしまう。友よ、ごめんな。でも来週の女子会は思う存分惚気させてもらうから覚悟しといてください。