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▼ 理由なんかは後付けでいい

金曜日の深夜2時、今日は一週間の中でも特別で大切な1日だった。

「もしもし?悪いな、遅くなって」
「ううん。衛輔くんもお疲れ様」

わたし達は出会ってからずっと隣にいたのに、気付けば飛行機で丸1日以上かかる遠距離になっていて。もちろん寂しいのは当たり前だけど、何が辛いかって距離より、時間だった。

衛輔くんとわたしの間は約4時間の時差があり、その4時間がわたしを何度も苦しめた。

「名前、寝るならちゃんとベッド行けよ?」
「う...ん...あとで、」
「後でじゃなくて今行けって」
「衛輔くんが連れてってよ〜...」

言ってから、自分がどれだけ寂しいことを言ったか自覚する。ああ、言うんじゃなかった。

「今は無理だけど、そっち帰ったらいっぱい甘やかしてやるから!」
「ふふ、本当は衛輔くんが甘えたいくせに?」
「ばれた?」
「ばればれ!ばればれの、ばればれだよ!」

テレビ電話に向かって指を指しそう笑うと、衛輔くんもわたしの大好きな笑顔を見せてくれる。今だからこそ、こうして辛うじて繋がることができるけど昔の人はどうやって遠距離恋愛してたんだろう。心の底から尊敬する。きっと、何人もの人の悲しい涙から携帯電話が生まれたんじゃないか、なんて得意の妄想しながら衛輔くんの顔を画面越しに撫でる。

「次、帰ってきたら何しよっか?」
「えー、家でゆっくりしようぜ」
「日本満喫しなくていいの?」
「いいよいいよ。どーせアイツらと会ってもいつもと変わんねーし。それより、」

衛輔くんが体勢を変えて、さっきより顔が見やすくなる。やっぱりかっこいいなあ、寝る前だけどメイクしておけばよかったな。あ、前髪跳ねてるじゃん最悪。と自分の前髪に気を取られていて、衛輔くんがニヤっと笑った瞬間を見逃していた。

「名前のこと、充電させて」
「も、もう...すぐ、そういうこと...」
「そういうことってなんだよ?何想像した?」
「うるさい」
「やなの?」
「...や、じゃないけど、」

この目に見つめられると、何も嘘がつけなくなる。スマホ越しなことはわかっているのに、衛輔くんとピタッと目が合ってわたしはいつも通り何も言えなくなってしまった。

「ほら?そっち深夜だから許されるかなって」
「許されません!下ネタ禁止!」
「はい!俺、下ネタなんて言ったっけ?」

ニヤニヤと嬉しそうに、思春期の高校生かよ。なんて心の中ではツッコミつつもわたしは「もうやめてよ〜」と恥じらっていた。

「とりあえず帰ったら、名前の野菜炒め食うって決めてるからよろしく!」
「ただの野菜炒めだよ?!」
「俺が、お前の野菜炒め1番好きって知ってんだろ?」
「張り合いないなぁ、」
「お前のだからいいんだって」
「じゃあ楽しみにしてて?」
「おう」

ふぁ、とあくびをすると衛輔くんがすかさず「寝るか?」と声をかけてきてくれる。優しくて、暖かくて、好きだなぁと思った時には言葉に出ていた。

「んだよ...急に」
「急じゃない、ずっと好きだもん」
「俺も、好き」
「へへ。なんか電話だと恥ずかしいね」
「自分から言ってきたクセに、その可愛い顔禁止〜!」
「えっ?!すっぴんだよ!やめてよ!」
「スクショしといた」
「ばか!」

お願いだから消してくれと懇願してもそのお願いは通ることなく、きっとまた衛輔くんのフォルダにわたしの変顔シリーズが増えている。前に会った時に見せてもらったけど、それはひどいもので。なんでこんな変な写真ばっかり集めてるの?って怒りながら聞いたら「俺しか見れない、名前のこと残してんの」とかっこいい笑顔で言われてそれきり何も言い返せなかった。

「衛輔くん、わたしのこと結構好きだよね?」
「おう。じゃなきゃこんな遠距離続けようって言わねーよ」

どこが、好き。何が、好き。そんな言葉なくても衛輔くんから伝わる愛が全てだとわたしはちゃんとわかっているし、片道26時間の飛行機だって深夜の電話だって全部乗り越えれそうだと、愛の力は偉大なんだと今日も思った。でもやっぱり、早く会いたいからどうか神様、時間を進める魔法をわたし達にかけてください。

「理由なんかは後付けで良い」
title by 星食



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