小説 | ナノ


▼ 花凛様

「で、どういうことすか?」

家に帰ってさっそく質問、と言う名の尋問が飛雄くんから始まる。どういうことも何もやましいことはないんだけどな…と、ヤキモチ妬きの旦那さんに少しだけ呆れながらも一から説明をする。もう何年一緒にいると思ってるんだろう。それなのに、こんなにまだ全力で妬いてますと表現してくる飛雄くんが可愛くてたまらなかった。

「今日自由席で見てたでしょ?たまたま天童さんたちに会ってね」
「なんで、名前さんは天童さんのこと知ってたんすか」
「ええ?有名なんだよ?天童さんのショコラ。ほら、飛雄くんも食べたことあったよね?」
「…?」

首を傾げて記憶を呼び起こそうとしているが、板チョコとトリュフの違いもよくわからない飛雄くんに言ったわたしが間違いだった。

「この間も牛島さんからもらったチョコ!」

先日頂いた分ウイスキーボンボンは子供達を寝かしつけた後、飛雄くんと一緒に一粒ずつ大事に食べさせてもらった。きっとそれなら飛雄くんも覚えているだろう、と安堵する。

「あ、美味かったやつ…」
「そう!それをね、天童さんが作ってて。子供用の新作出来たら送ってくれるって!」
「…おー…」
「だから、連絡先交換したの!わかってくれた?」

完全に拗ねてる飛雄くんはソファで飛空のお気に入りのきょうりゅうぬいぐるみを抱きしめながらわたしのことを見つめてくる。かわいい。でも、そんな可愛い顔したって、天童さんの連絡先は消さないからね!と心の中で意気込んで見つめ返す。

「俺が、電話する」

ほら、とわたしのスマホを寄越せと言わんばかりに手を出してくる飛雄くんに自分が信用されていない、とかそう言ったことは感じない。ただただ、拗ねてる飛雄くんが可愛いと思ってしまう自分は色々とヤバい、と言うことには気づいている。だが、あの目で見られると何でも言うことを聞いてあげたくなるし、何でもしてあげたくなってしまう。惚れた弱みとはこういうことなのかな、と思いながらスマホのロックを解除して飛雄くんに手渡した。

飛雄くんはそのままわたしのスマホを耳に当てて天童さんへと電話をかける。

「もしもし、影山です」
「あれぇ?奥さんじゃなくて?」
「はい。今日は妻がお世話になりました」
「あ、わかった!お前、妬いて電話かけてきたんだろ」

天童さんは面白そうにそう言い放つと、飛雄くんはさも当然だと言うように「はい、そうっす」と返事をしてわたしは恥ずかしい気持ちで胸がいっぱいだった。天童さんと、今度顔を合わすことがもしあれば、恥ずかしくて目が見れないかもしれない。

「後、子供たちの相手もありがとうございました」
「すげ〜良い子達だネ!お前と違って」

ははは、と笑い飛ばす天童さんに引っ張られてわたしも笑いそうになるがグッと堪える。

「この間食べたチョコレート、美味かったです。ありがとうございました」
「ほんと?あれウチの看板だから、また送ってあげる!」
「…アザス!」
「あとチビちゃん達も食べれるようなやつもまとめて送るから、また感想聞かせて」
「うす」
「じゃ、奥さんとチビちゃん達によろしくね〜」

本当なら天童さんは気を悪くしても良い立場なのに、全くそんなことは感じさせずにこやかに電話が終わる。わたしはなぜかどっと疲れた気持ちになり、拗ねていた飛雄くんの横に腰を下ろす。

「機嫌、治った?」

飛雄くんの抱きしめていたぬいぐるみを奪い取り、空いた飛雄くんのスペースに飛び込む。

「治ってねえ」
「ええ…!?」

すっかり治ったと思っていた機嫌、いや多分治ってるはずなのに。なんで嘘つくの?と飛雄くんをじっと見つめると「治ってねぇから、名前さんからキスして」と言ってのける。

「も〜…!」
「俺以外、見て欲しくない」
「見てないよ?」
「違う、なんかその心とかじゃなくて普通に」
「それは無理じゃない?」
「だから、キスしろ」

飛雄くんもさすがに自分が少し子供っぽいことを言っている自覚があるのか、後半は少し照れていて愛おしくなる。しょうがないなぁ、と口では言いつつも可愛くてたまらない飛雄くんにそっとキスをする。

「足りねぇ」

結局自分からするんじゃん、なんて思っていても口に出すことはせず飛雄くんのキスを何度も受け止める。ぎゅ、っと抱きしめると飛雄くんが優しく微笑んでくれていつからこんなに嫉妬深く面倒臭い旦那さんになったんだろう、と考えるが割と昔からそうだったのかもしれないなぁ。とわたしも諦める。

「わたしだってね、飛雄くんが芸能人と仲良くしてたら、妬くよ?」
「…妬く、んすか」
「なんで敬語なの」
「やべ、嬉しい」
「ちょっと!恥ずかしいから、誰にも言わないでよ〜!」

なんて会話も、数ヶ月後にテレビ番組で女優さんに「影山選手、背も高いしかっこいいですね!」と社交辞令で言われていたのに「妻が妬くんで、すいません」と真剣に返していてわたしはもう、それはそれは、恥ずかしくて。当分試合観に行けない、と家に引きこもりたい気持ちでいっぱいだった。

そして、天童さんから大量のショコラが送られてきて子供達は目をキラキラと輝かせてダンボールの中をこれでもか、と体いっぱい突っ込んでのぞいていた。

「ねぇママ!こっちの赤いの何?飛空くんこれがいい!」
「ひぃはね、このオレンジがいいの」
「2人ともお約束できるかなぁ?」
「「できる!!!」」

思わず2人の声がぴったりとハマり、可愛いなぁとスマホを向けながら話を続ける。

「チョコは1日1個まで!」
「たべたらはみがきする!」
「さとりお兄ちゃん、チョコレートありがとう!」
「ありがとう!またおうちきてね」
「ばいばーい!」

すぐにこの動画とお礼を天童さんに送ると「可愛いすぎる…」と返信が来て、夜に改めてお礼の電話をすることになった。キラキラと輝いているショコラをどれから食べようか、と飛空も飛茉も真剣に悩んでいて一口食べた時の笑顔はきっと大人になっても忘れられないだろう。




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