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▼ 杏樹様

わたしの推しには、溺愛のお姫様がいる。影山飛茉ちゃん、2歳。そう、かの有名な日向くんの元相棒影山飛雄選手の娘さんだ。飛茉ちゃんがいる試合は、日向くんは試合が終わると終始デレデレしているからすぐにわかる。

そんな姿も、可愛いなと思ってしまうわたしはきっと重症だ。

「日向選手!お疲れ様でした!」
「おー!!名前さん!今日もめっちゃいいとこで見てませんでした?」
「えへへ、チケット頑張りました!」
「すげぇ〜!俺の、スーパープレイ!ばっちり見てくれました?」
「もちろん!この世で1番格好良かったです…!」
「ちょっと、それは照れ、ます」

頬を赤らめて鼻の横をかいている日向くんが可愛くて、わたしはここが会場でなければ「可愛すぎるだろ!!!!!」と叫んでいたに違いない。いや、叫んでいなかったとしても今わたしの顔はゆるっゆるの、デレデレのはずだ。お願いだから色紙から目線を上げないでくれ。そんな願いも虚しく、一瞬日向くんと目が合う。

「っ、」

あの綺麗な瞳に見つめられると、何も言えない。思わず息を呑んで日向くんを見つめていると日向くんがきょとんとした顔で話しかけてきた。

「なんで名前さんの方が、照れてるんですか」
「いやなんか…その、日向くんの赤面が…めっちゃ可愛くて…ハイ」
「もー!いつも俺、可愛いより格好いいが良いって言ってるじゃないですか!」

ぷんすか、と効果音がつきそうな怒りっぷりにわたしは愛おしさが限界突破して顔面を両手で抑える。そう、いつも日向くんに可愛いと言うとこう怒られるのだった。それでもやっぱり、日向くんはプレー以外は可愛い部分が多すぎるので早く諦めた方がいいと思う。

「あの!言っときますけど!」

脳内で日向くんの可愛かったシーンを再放送していると、サインが終わったのか日向くんが話だす。今日も可愛い字で書かれたサイン。「名前さんへ」と書かれた文字が嬉しくて思わず指でなぞる。

「俺も、男なんで!」
「知ってますけど、?」
「名前さんの方が絶対に!可愛い!と、思い…ます」

後半から失速してしまった言葉に、わたしは再び顔を抑えようとするが色紙を持っていたため色紙で顔を隠すことにした。こんな恥ずかしい顔、推しに見られてたまるか。

「ちょっと、何で隠すんですかぁ!」
「いや、いや…!日向選手の爆弾発言により、被爆したので今日はもう閉店です」
「?」
「急に意味わからんみたいな顔すんのやめて?!」

思わず敬語でいつも話していたが、関西弁が飛び出てしまう。

「わ!やった!」
「何が!?」
「俺、名前さんといつも話す時1回でも関西弁で話してもらえたら俺の勝ちって思ってるんです!」
「…?」

推しが、尊い。

「それだけ一瞬。俺に気、許してくれるってことじゃないすか」
「…へ、あ」
「だから今日も俺の勝ち!」

いえーい!とハイタッチを求められ、わたしは完全に置いてけぼりにされた状態で手を合わせる。ハイタッチの手をぎゅっと握られ「ほら、男の手でしょ?わかります?」なんて真剣な顔で言われてしまい、限界だった。

日向選手のリアコなんて、陽キャすぎて耐えれる気がしないんですが。え?わたし日向選手の太陽パワーを浴びるだけで幸せだったんですが、どうやら今日からリアコになってしまったみたいです。どうか、責任とってください。



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