小説 | ナノ


▼ りん様

「鉄朗?何見てんの?」
「ああ、影山のSNS見ててさ…ほら、見て」
「えー!可愛い!影山選手そっくり」

最近仕事の忙しいわたしの彼氏は、夜中にこっそり帰ってくることも少なくはなくこうしてお風呂上がりに団欒出来るのも久しぶりだった。

「こないだ孤爪くんの家に子守しに行ったんだっけ?」
「そうそう、まあ俺は飛空と昼寝してただけだけどな」

ハハハ、と笑う鉄朗にわたしは今しかないと切り込むことにした。

「あの、さ」
「待って。ダメ」

真剣な顔をして鉄朗に話そうとするが、鉄朗によって遮られる。「よいしょ」と抱き上げられ、すっぽりと鉄朗の足の間に座らされ後ろからぎゅっと抱きしめられる。あまりも力強く抱きしめられるもんだから、苦しいのと恥ずかしいので鉄朗の腕を甘噛みする。

「おい」
「ごめんって」
「も〜?名前チャンかわいいなぁ」
「うるさい」
「でも、もうちょい待っててくれる?ちゃんとするから」
「…うん」
「俺も、同じ気持ちだから。そこは安心してよ」

ぎゅう、っとさっきよりは優しい力で抱きしめられ鉄朗の顔がわたしの肩に乗り耳を優しく甘噛みされる。くすぐったくて鉄朗の方を振り向くと優しいキスをされ目を閉じる。久しぶりの触れ合いに胸がドキドキして手持ち無沙汰だった腕を鉄朗の首に回し「もっと」とたくさん触れて欲しくて思わず自分からお願いしてしまう。

「寂しかった?」
「…全然?」
「まーた、強がり言っちゃって」
「鉄朗の方が、寂しかったんでしょ?」
「うん。めちゃくちゃ、寂しかった」

まさか本気で返ってくると思わず、聞いたわたしの方が照れてしまい思わず目を逸らす。本当、こういうとこずるいんだよなぁ、と鉄朗からの愛を受け止めていた。

そしてそれから何日か経ち、先日のお礼と影山選手からアドラーズの試合のチケットを頂きわたしとオフの鉄朗は久しぶりに一緒にバレー観戦へと会場へ足を運んだ。

「それにしても、普通自分の試合のチケットお礼に送ってくるか?」
「まあ、いいんじゃない?結構良さそうな席だし」
「まあ名前がいいなら俺はいいけど」
「うん!鉄朗と出かけるの、どこでも楽しいし、嬉しい」
「あんまりそんな可愛いこと外で言うんじゃありません!」

鉄朗がそう言って外にも関わらずわたしの頬を優しく撫でてくる。「もう、恥ずかしい」と目線を逸らすと可愛らしい女の子とバチっと目が合う。

「ちゅーちないの?」
「こら、飛茉」

きょとんとわたし達のことを見ながらそう言ってきたのは影山さんのお子さんで。奥さんは焦ってお子さんの口を封じていた。

「あ!クロさんだ!」

生で見ると2人とも本当に可愛くて、というか奥さんもめちゃくちゃ可愛くて2人もお子さんがいるようには全く見えない。信じられない。鉄朗は飛空くんを抱き上げると飛空くんも嬉しそうにケラケラ笑っていて、いつかわたしも…と微笑ましい気持ちで2人の姿を見守る。

「黒尾さん、先日はありがとうございました」
「久しぶりのデート楽しかったですか?」
「ふふ、それはもう。はじめまして、影山の妻です」
「黒尾の彼女、です」
「とってもお似合いで、素敵ですね」

奥さんはそう言って優しく微笑みかけてくれる。嬉しくて鉄朗の方を見るとちゃんと聞こえていたようで「影山夫婦にも負けないっすよ」と笑っていた。飛茉ちゃんがわたしの服を引っ張って「おねーたん」と話しかけてきてくれて可愛さのあまり放心していると焦ったそうにもう一度呼ばれて慌てて同じ目線までしゃがんだ。

「おねーたん、おひめさま?」
「お、お姫様!?違うよ?」
「ちがうの?でもクロがゆってたの」
「鉄朗が?」
「うん」

ぱっと、鉄朗の方を振り返るとさっきまで余裕綽々だった鉄朗の顔が一瞬で真っ赤に染まっていた。

「ちょ、飛茉ちゃん!それは俺ら2人の秘密って約束したろ!」
「…ちた?」
「した!」
「クロ、おひめさまいてるってゆってた!」
「コラ!」
「ふふ、飛茉は最近そういう話題にすぐ食いつくんですよ」
「ちょっと!奥さんも笑い事じゃないですから」

1人であたふたしている鉄朗が珍しくて、面白くて。わたしのことを子供にお姫様と話していたことも可愛いし、もう笑いが止まらなくて鉄朗は真っ赤な顔のまま「もー勘弁して」と顔を覆っていた。

「わたしがお姫様なら、鉄朗は王子様だね?」
「お前までやめろよ…」
「わ!しゅてき!」

飛茉ちゃんが手をパチパチと叩いていて、もう可愛いの言葉では足りないほどだった。こんなに面白い話を鉄朗が外で、しかも子供にしてるなんて想像もしていなくて。今日はこれだけで来てよかったなと思えるほど、幸せで気持ちがいっぱいだった。

帰り道、手を繋ぎながら「鉄朗のお姫様、わたしだったんだね」とふざけながら言うと今度は照れずに真剣な顔で「当たり前だろ〜?」となぜか偉そうに言ってくる。あんなに照れてた可愛い鉄朗はどこに行ってしまったんだろうと少しからかい甲斐がなくつまらないな、なんて思っていると鉄朗に手を取られ手の甲にキスを落とされる。

「お姫様は、この後どうしたいですか?家に帰って朝までイチャイチャでよろしいですか?」
「…ばか」

鉄朗にキスされた手の甲からはじまり、すっかり全身熱ってしまい、一瞬でわたしもその気になる。飛茉ちゃんが言うような可愛いプリンセスとはかけ離れているなぁ、と1人で苦笑いするのだった。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -