小説 | ナノ


▼ 悠灯様

飛雄は普段からエゴサはするタイプではなかったが、ファンからのDMには一通ずつ時間のある時は確認していた。またSNSの仕組みはよくわからなかったが、タグ付けやメンションをされると自分に通知が来ていることもありよくファンの投稿も目にしていた。

一方、名前のSNSは昔からの知り合いのみで鍵をつけて基本、飛雄にDMすることもタグ付けメンションをすることもなかった。だから飛雄は名前の普段の様子は全くわからないし、自分の試合がない土日を名前がどう過ごしているのか知る術がなかった。

今日のトレーニングも終わり、帰宅してくつろいでいると飛雄のスマホが鳴り出す。こんな時間に珍しい、とディスプレイを見ると宮侑からの着信で飛雄は一瞬出るか躊躇うが出るまでかけてきそうだなとスマホを耳に当てた。

「お疲れ様っす」
「飛雄くんお疲れ〜!」
「どうしたんすか」
「飛雄くんのファンの名前ちゃん、おるやん?」
「あ、ハイ」
「今日俺らの試合観に来とったで!」

え、という言葉を飛雄は飲み込み自分が焦っていることを悟られたくないのか「そうすか」とクールに返事をする。侑は飛雄が思った通りの反応ではなく肩透かしをくらった気分になっていた。

「え、名前ちゃんから聞いとったん?」
「聞いてません。その呼び方やめて下さい」
「ほぉ…?」
「なんすか」
「いやぁ?えらい余裕やなぁ、おもて」
「用事それだけならもう切ります」

侑が何かを話していたが、これ以上電話を続けていると無性に腹が立って収まりそうにないので無理やり電話を切ることにする。飛雄は電話を切って、自分のSNSのフォロワー欄を見る。

「これ、名前さんって前言ってたよな」

鍵の付いた名前のアカウントを見ながら飛雄はメッセージのボタンを押し「今日、ジャッカルの試合行ってたんですか」と打って送信ボタンを押そうとする。

「…」

さすがに女々しいか、と思い止まるがどうしても気になって仕方ない。名前と話せるのはきっと一週間後の試合だろうし、それまでにバレーをしてる時間以外名前のことばかり考えてしまうことになるだろうと飛雄はため息をつく。

「走るか」

悶々とした気持ちをスッキリさせようと、飛雄はスマホを家に置き走りに行くことに決める。いつものコースを走り、雑念を捨てすっかり気分も良くなりシャワーを浴び寝ようとする。ベッドに入りスマホを何時間も放置していたことに気付き、画面を開く。すると珍しく名前のアカウントからメンションが来ていることに気付き素早くスマホのロック画面を解除する。

画面を開くと「早く影山くんの試合が観たいよ〜」と今日のチケットの写真と共にストーリーが上げられていた。飛雄は自分が単純なことに気づきもせず、すっかり気分が良くなっていた。これくらいなら許されるか、と拍手のボタンを押し送信しておいた。

牛島などはたまにファンとDMで交流しているが、飛雄は壊滅的にそう言ったことが苦手だと早々に井上にバレており一切を禁止されていた。

もう一度見ようと名前のSNSを開くが、飛雄からの返事が来た途端に名前のアカウントはまた鍵がかけられて飛雄はその後名前のストーリーを見ることが出来なくなっていた。

ひとまず、すっかり機嫌の直ってしまった飛雄だったが、実際に名前から直接ジャッカルの試合の話を聞かされるとこれはまた別の問題で機嫌が急降下していった。

「あの、影山選手…?」
「すいません、妬いてました」
「えっ!?」

話の途中で急に機嫌が悪くなったな、と察知した名前がそれとなく聞き出そうとするがアッサリと自分の気持ちを白状する飛雄。

「名前さんが、俺以外の試合観るの、嫌です」
「っ、そんなこと…言われたら、」

飛雄はしまった、言いすぎたと後悔するが口に出してしまった言葉は消えることはないので「すいません」と言いかけるが名前の言葉が吐き出される方が早かった。

「嬉しい、って思っちゃいます」

えへへと恥ずかしそうに笑ってくる名前が可愛くて、飛雄は自分の感情が昂るのがわかり戸惑う。自分が試合以外で感情を揺さぶられることが、飛雄にとっては未知のことで情報の処理が追いついていなかった。

「影山選手もそんなこと言えちゃうんですね。ふふ、ドキドキしちゃいました」

と、名前が続けて話し出すが飛雄の耳にはあまり届いていなかった。飛雄は自分の発言が本心であることが上手く伝わっていない、などわかるわけもなくただ自分の心臓がいつもより早く動いていることが気がかりだった。

「あの、」
「はぁい」
「名前さんといると、すげぇドキドキします」
「えっ!?や、もう今日はこれ以上はお腹いっぱいです…よ?」
「?飯の話、してませんけど」
「とりあえず!明日も、その、楽しみにしてます。今日も1番格好良かったです」
「…宮さんより、すか」

飛雄は自分が少し女々しいことを言っている自覚はあったが、つい口からこぼれ落ちてしまった。名前は何を言われているのか一瞬わからない様子だったが、すぐに先週自分がジャッカルの試合を観に行ったことで言ってきていると理解し必死に弁解をはじめる。

「あ!当たり前に!影山選手が1番です!」
「うっす」
「先週、ジャッカルの試合観に行って…早く影山選手の試合観たくなっちゃいました」
「知ってます」
「…あ、」

名前が声のボリュームを落とし、飛雄は聞きづらいなと感じたので少し距離を詰める。

「DM、ありがとうございました」

小さい声でそう呟く名前に、飛雄はまた心臓が跳ねそうになる。さっきより近い距離で、良い匂いもして頭がおかしくなりそうだった。だが、こんな公共の場で付き合ってもいない女性を抱きしめるほど考えなしではさすがになかったようで。ぐっと我慢をして名前と別れの挨拶をする。

この自分の感覚が、世間一般でいう「恋」だということにまだ飛雄は気づいていない。



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