小説 | ナノ


▼ あやめ様

あ、最悪。今日のファン感、名前さんと席近いじゃん。なんて思ったら本当に最悪で。影山くんと一度も目が合うことはなかった。影山くんがアイドルじゃないことなんて、わかってはいるけどさすがに対応の差に凹む時だってある。

ファンに感謝する祭とかいてファン感なんだから、わたしにだって感謝してくれてもよくない?なんて思うがとても口に出せるものではなかった。連番した友人からもなんとも言えない慰めのような言葉をもらうが、正直そっちは同担にスペオキ古参なんていないんだから黙ってて欲しい。地獄のような空気で終えたファン感のイベントは、これ以上最悪なことが続くか?ってほどに運が悪くてサイン列は名前さんの後ろに並んでしまうことになる。今日は列も番号で順番が決まっていたので運営に文句を言いたい気持ちでいっぱいだった。

「名前さん!」
「こんにちは〜!今日凄く楽しかったです」

にこにこと笑いながら話しているんだろうな、というのが名前さんの背中を見てるだけで伝わってくる。聞きたくない気持ちと聞きたい気持ちが入り混じって最悪の気分だった。そして何より1番最悪なのは、後ろに並んでいると影山選手の表情が全て丸見えで。

(あんな顔していつも名前さんと話してるんだ)

もちろんわたしには見たことのない顔をしながら話している影山選手を無表情で見つめてしまう。

「名前さんが楽しそうで、俺も楽しかったです」
「ふふ、影山選手面白くていっぱい笑っちゃいました」
「嬉しいっす」
「こないだ影山選手がインタビューで言ってたカレー屋さん、食べに行ったんですけど美味しかったです」
「いつですか?」
「ええ…?先週、くらいですかね?」
「俺も行けば良かったです」
「カレー屋さんで影山選手に会ったら緊張して何も食べれなくなっちゃうんで、会わなくてよかったです」

名前さんがくすくす笑いながら言っているが、影山選手の顔がガチでやっぱり影山選手の方が名前さんを好きだという噂は本当なんだろうなぁ、とその場から立ち去りたくなる。

「名前さん」
「はぁい?」
「今日の服、好きっす」
「!ありがとうございます…!来週の試合も楽しみにしてますね」
「はい。頑張ります」

この後に話さないといけないわたし地獄すぎないですか?名前さんがくるっと後ろを振り返り、幸せそうに頬を手で抑えながら歩いていく。その姿はそれはそれは可愛くて、そりゃ影山選手だって鼻の下伸ばして喜ぶよなと納得する。しかもなんか、めちゃくちゃ良い匂いした。

そして影山選手の前に立ち、当たり障りない話をする。もうそこには先ほどまでの19歳の影山飛雄はいなくて、バレーボール選手の影山飛雄だった。

ファン感のあとは大体掲示板の書き込みも盛んになることが多く、今回も牛島選手と影山選手のスレッドが賑わっていた。牛島選手の方は後で覗くとして、とりあえず影山選手の方を開いてみる。

108 : 20XX ○/15
影山やばすぎ

109: 20XX ○/15
何?

115 : 20XX ○/15
109
現場来てて気づかなかった?

118 : 20XX ○/15
名前さんのこと見過ぎな

120 : 20XX ○/15
それはもはや通常運転

125: 20XX ○/15
さすがに話すたびに名前さんの方見て反応確認してんのはやりすぎ

128 : 20XX ○/15
125
全部チェックしてるお前もやばい

129 : 20XX ○/15
128
視界に入るんだから仕方ない

130: 20XX ○/15
今日もご機嫌でよかったけどね

131: 20XX ○/15
名前さん今日も可愛すぎて笑った

133: 20XX ○/15
131
オタクの話はスレチ

136: 20XX ○/15
新規です 名前さん最前にいましたか?

138: 20XX ○/15
136
いたよ イベント系は大体最前

138: 20XX ○/15
影山選手と繋がってるんですか?

139: 20XX ○/15
138
さすがにそれはない

140: 20XX ○/15
138
ただのオキニ

141: 20XX ○/15
138
繋がってたら現場こないでしょ

142: 20XX ○/15
141
さすがにそうですよね

既にあった書き込みに加え、リアルタイムでどんどん追加されていく書き込みにみんな同じことを思っているんだなと少し安心する。
牛島選手の厄介オタクがSNSに「今日も名前ちゃんと最前で優勝した〜!」と顔を隠した写真を載せていたがそれはもちろん掲示板に晒されていた。掲示板を読みながら自分と名前さんは別物だって言い聞かせるし、やっぱり影山選手のプレーが好きだから応援しているし、そこは割り切って来週からも応援しようと今日の影山選手がわたしに向けてくれた数少ない笑顔を思い出すのだった。



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