小説 | ナノ


▼ 杏樹様

(不自然、じゃない、よね?)

何度も何度も書き直した、インスタのストーリー。親しい友達限定にして、不自然じゃない写真を選んで、そこから入力する言葉を考えて。クラスメイトの角名くんが食いついてくれそうな話題を盛り込んで、震える手で投稿ボタンを押す。

なんでもいい、なんでもいいから反応して欲しい。もちろん何か文章が飛んでくれば最高だけど最初は絵文字だけでもいい。そんな祈りを捧げながら10秒おきに確認するスマホ。ああ、やっぱりやめておけばよかったなんて思うがもうそれは手遅れで。投稿してから何分経ったかは定かではないが、スマホに通知が来る。

「き、きた…!」

ドキドキしながら震える指で画面をタップすると、角名くんから拍手の絵文字が飛んでくる。嬉しすぎて画面をすぐスクショしてわたしもダブルタップをしてハートの絵文字を送ってみる。ちょっと反応するの早すぎたかな、なんて思うがもう送ってしまったものは仕方ない。緊張と興奮で震える指を手を握って落ち着かせる。ベッドの上で何度もスクショした画面を見ながら、気付けば寝落ちしていた。

もちろん次の日学校で角名くんと会話どころか目も合わせることが出来ないまま、また1日が終わる。

今日も昨日とは違うストーリーを更新してみるが、今日は反応がない。やばい、泣きそう。何が悪かったんだろうと考えるが検討もつかずサブ垢に真っ黒な背景で「病んだ。ぴえん」とだけ書いて投稿する。かまってちゃんな自覚はあるけど、友達に聞いてもらわないと耐えられなかった。

「昨日の夜中の病みストーリー見たで」
「もぉ、ほんま嫌やわ…むり」
「昨日何載せたん?」
「昨日は勉強してる写真にここわからん〜って文字入れた」
「それはあざとすぎ。アウト」
「ええ、泣いた」

放課後の教室で友達と喋っていると、とっくに下校時間が過ぎていることに気づく。時計を見て「やば!帰ろ!」と友達と教室を飛び出した。部活に入っていないわたし達がこんな遅くまで残っていること自体が珍しく、部活をやってる友達から声をかけられる。

「名前ら、何してたん?」
「ちょっと喋ってたら時間秒で過ぎてたんやけど!」
「話しすぎやろアホやん。あ、てか」

バスケ部の友達がちょいちょい、とわたしのことを手招きし顔を寄せ合う。

「男バレ、もうすぐあっこから出ててくると思う」
「、え!」
「角名も絶対おるで」
「あたし侑に話しかけたろか?」
「い、いい!話すのはちょっと、まだ」
「はあ?そんなん言うてたら他の子にとられんで!」
「だってそんな話したことないのに…!」
「いけるいける、あ、出てきた!」

そうこう話しているうちに、友達が言っていた場所からドンピシャで宮くんと角名くんが出てくる。友達が「侑〜!お疲れ〜!」と声をかけにいくのでさすがに居心地が悪いが後ろでちょこんと置物のように立ってるしかなかった。

「なんでお前まだおるん?帰宅部やのに」
「名前と話してたら遅なってん。な〜、名前!」
「えっ、あ、うん」
「侑昨日LINEで言うてたゲームのやつ、続きできた?」
「アカン。ほんまにむずい。お前あんなんほんまに無課金で出来たんか?」
「ちょお貸してみ」

そんな話をさくさく2人は繰り広げながら、自然と一緒に帰る流れになる。わたしと角名くんは無言で友達と宮くんの後ろをついていく。死にたい。

「これ、苗字さんだよね?」

そう言って見せられた画面はわたしのインスタの画面で、わたしは壊れた人形のようにこくこくを頷くしかなかった。

「ストーリー、いつも面白いからあんま話したことなかったけど反応してたけど大丈夫だった?」
「ぜ、全然大丈夫!いつも、その、嬉しいし」
「ほんと?じゃあ、これからもまたなんか送るね」
「わた、わたしも送ってもいい?」
「相互フォローなんだから、良いに決まってるじゃん。苗字さんってほんとおもしろいね」
「は、はは…」

わたしは角名くんに面白い女だと思われたいわけではないのに、この展開は美味しいのかどうなのかわからず愛想笑いを浮かべて乗り切ってしまった。

友達には後からめちゃくちゃ怒られたけど、わたしとしては角名くんと2人で会話出来ただけでも褒めて欲しい。その日以降も廊下で見かけたら挨拶をしたり、DMで話したりと確実に仲良くなれててわたしは自分の成長を褒め称えていた。

そして今日はたまたま冷凍庫に入っていたチューペットを写真に撮り「もう暑くない?チューペットすき」となんの面白さもないストーリーをサブ垢と間違えて本垢にあげてしまった。気づいた時にはもう遅く、角名くんは既にストーリーを見てしまっていたようで下に角名くんのアイコンが表示されている。メッセージで話したかったのに失敗した…と病んでいると通知がくる。

「俺も好き」

と、画面に表示されていて驚いてスマホをひっくり返して裏面にヒビが入ってしまった。病んだ。けどもうそんなことどうでもいい。すぐにロック画面を解除してDMの画面を開いて返事を打とうとすると角名くんはまだ何かを入力中だった。

「購買にも売ってるの知ってる?」
「知らんかった!」
「明日半分こしようよ」

(は?夢か?なに?ドッキリ?)

「する!」
「じゃあ明日お昼に」
「おやすみ」
「おやすみ〜」

角名くんはその後キツネが寝てるGIFを送ってきてわたしは可愛さに発狂する。もう無理、なに?可愛すぎるし、好きすぎるんだけど。次の日はいつもより2時間早起きして濃くなりすぎないようにメイクを入念にして、髪の毛もいつもより丁寧にブローして。お気に入りの香水を持って昼休みの前トイレで自分に振りかけた。

「ごめん、待った?」
「全然。俺も今きた、何色にする?」
「何色でもええよ!味一緒ちゃう?」
「一緒じゃないでしょ、ほんと苗字さんって面白いね」
「それ褒めてないやん!絶対!」

わたし結構普通に角名くんと話せてない?やれば出来る子すぎない?ドキドキしてる気持ちをひたすら隠しながら震える手を必死に隠し、角名くんからチューペットを受け取り「冷たぁ」と笑ってみせる。

「あ、いくらやったん?」
「いいよ。俺から誘ったし」
「えー!ありがとう。じゃあ、明日はわたしが買おか?」

なーんて、と付け加えようとすると角名くんが真面目な顔で「うん、ありがとう」と返してくるので逆に返事に困ってしまい無言でベンチに横並びでチューペットを食べ続けた。

「ごちそうさまでした」
「そんな大袈裟な」
「でもほんまに、昨日食べたやつより美味しかった!」
「俺と食べたからじゃない?」
「…!」
「苗字さんさあ」

角名くんがさっきまで不自然に空いていた空間をぐっと詰めてきて、肩と肩が触れ合う。ち、近い…!

「俺のこと好きならもうちょっとちゃんとアピールしてくれない?」
「っ、え、」
「そんな見た目だからもっとぐいぐい来るかなって待ってたけどもう待てない」
「…わ、わたし、え!?す、角名く」
「インスタだってどうせ親しい友達俺しか入れてないんでしょ?」

なんでバレたの!?というより、さっきから角名くんが言ってくる言葉の意味がわからなさすぎてわたしはベンチの端まで逃げるように後ずさる。

「わかりやすすぎ」
「な、え?わたしの、気持ち、知って…?」
「あんな毎日俺に話しかけてほしいオーラのストーリーあげてたらバレバレだし、俺が反応しなかったら朝からしょげすぎ」
「ええ、!?」
「あまりにも可愛いから、放置してたけどもういいかなって」

ああ、わたしフラれるんだと涙が込み上げてきて泣きそうになるが唇をぎゅっと噛んで我慢する。角名くんのチューペットで冷えた指がわたしの唇に触れて冷たさに思わず身を捩る。

「逃げないで」
「、っ…すな、く、」

角名くんの甘い声に心臓の音が今外に聞こえていたら学校中の人がここに集まってしまうんじゃないか、というほどにうるさい自信があった。近づいてくる顔に、反射的に目をぎゅっと瞑ると唇に冷たい唇が触れる。

「苗字さんのこと、好きだから」
「…わ、わたしも…すき…」
「今日から俺の彼女ってことでいい?」
「は、はい…」
「真っ赤じゃん。可愛い」

角名くんが目を細めて笑ってくれて、あ、死ぬ。と思った。今日から親しい友達へのストーリ投稿、じゃなくて彼氏への投稿になってしまった。え?何投稿したらいいの?



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