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▼ 竜胆様

「今日はよろしくお願いします!」
「こちらこそ、不慣れでご迷惑をおかけするかもしれませんがよろしくお願いします」
「影山飛空くんです!5歳です!」

飛茉はわたしに抱っこされたままテレビクルーの人を見たまま無言で固まっていた。そう、今日は日本の番組の密着取材がわざわざイタリアまで来てくれていた。

「飛茉、ご挨拶できる?」
「...こんにちは。ひまです」
「ひぃちゃんは2歳なんだよ!」

嬉しそうにテレビに向かってそう言う飛空は、随分テレビ慣れもしてきたなぁと思う。

「じゃあ軽く家の中見せて頂いても?」
「はい!もちろんです」

飛茉を抱っこしながら家の中をぐるっと一周案内する。

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「あ!!!はじまったよ!!!」

そう言いながら、2人でテレビの前で正座をして影山家の密着取材番組を見始めた。スタジオには影山選手をはじめ、他のスポーツ選手で愛妻家と言われている人たちが集まっているようだった。

「じゃあ、影山選手から!よろしくお願いします」

MCの芸人が影山選手に話を振ると、影山選手の貴重なアドラーズ時代の動画やリオオリンピック、そして東京オリンピックのプレー動画が流れる。

「男子バレー日本代表、イタリアAli Roma所属、影山飛雄です。好きな飯は奥さんが作ったもの、最近の癒しは家族とのテレビ電話です。よろしくお願いします」

ぺこりと影山選手が頭を下げてスタジオで拍手が響く。

「影山選手テレビ慣れてきたよね?」
「確かにな」

うんうんと、言いながらテレビを見つめていると他選手の自己紹介も終わりまた影山選手の話へと戻った。
突然テレビに映し出される影山選手と、飛空くんと飛茉ちゃんのスリーショットにわたし達は手を叩いて大喜びする。

「もうこの写真を見るだけで、奥様が美女なのはわかりますが実際奥様のどういうところが好きですか?」
「...全部、っすね」
「全部っていうのは、文字通り全部?」
「ハイ」
「噂によると、影山選手の奥様は元ファンの方で影山選手から猛烈なアプローチの末ご結婚されたと...20歳で結婚したんですか?!早かったですね」

影山選手のファンなら誰もが知ってる話をテレビで何度も大袈裟にされるのは正直見ていて気持ちがいいものではないが、当時を思い出してるのか優しい顔で「誰にも渡したくなかったんで結婚しました」と公共の電波で言ってのける推しを見たらもうそんなことはどうでもよかった。

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「そうですね、基本的に食事は全てわたしが作ってます。もちろん朝晩だけですけど、夫のチームの管理栄養士さんからランチのメニュー全て頂いて朝と晩で満遍なく栄養を取れるように意識してます」

そう言いながら、ここ1週間の食事を撮りためていて欲しいと事前に言われていたのでスマホをスクロールしながら画面を見せる。

「夫は1人だとカレーだけで朝昼晩いけるくらい食事に無頓着だったんですけど、一緒に暮らしてからは好きなものがいっぱい増えて食事も栄養を摂るだけの物じゃなくて楽しんでくれてるような気がします」
「ママのご飯美味しいよ!飛空くん大好き!」
「ふふ、ありがとう」

飛空の頭を撫でながらそう答えると次の質問がくる。

「イタリアの生活で大変なことですか?」

なんだろう、と記憶を辿りながら少しずつイタリア生活を思い出していく。

「やっぱり、日本でしかわたしも生活したことがなかったのでスキンシップに最初は戸惑いました」

飛雄くんと一緒に出たパーティーであらゆる人からチークキスを受け、飛雄くんの機嫌が目に見えて悪くなっていったことを思い出して笑ってしまう。

そんな話をしていると、飛雄くんの帰ってくる時間でスタッフさんに「毎日全員でお迎えするんです」と告げ子供達と手を繋いで玄関へ向かった。

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VTRが流れ終わり、スタジオへとカメラが戻った。

「名前さん尊すぎない?いや、飛空くんも飛茉ちゃんも可愛すぎるんだけどさあ?!」
「いや〜!モザイクがな!邪魔だよ!」
「せっかくあんな綺麗なのに...!なんなら夫婦のツーショットとか世にばら撒いて欲しいのに...!」
「まあ、影山選手が許さないだろうな」
「それな?」

わたし達は早くも2本目のビールを開け、テレビに向かってあーでもないこーでもないと話し続けた。

「影山選手の奥さんは、基本的に顔出しNGなんですか?」
「はい、ダメです」
「めちゃくちゃ美人って聞いたんですけど、ちょーーーっとだけでもダメですか?」
「んなことしたら、みんな名前さんのこと好きになるんでダメです」

終始真顔で真剣に返す影山選手と芸人の温度差が面白くてこれは影山選手これからバラエティ呼ばれたりするなぁとなぜか探偵のような気持ちでテレビを見続ける。

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「おかえりなさい!」

そう言ってテレビが入ってるから、少し恥ずかしい気持ちもあるがいつも通りハグとキスをして出迎える。わたしが終わったら子供達も順番にいつも通りの挨拶をして飛雄くんが家に入ってくる。

「お疲れ様です」

と、テレビスタッフの方にぺこりと会釈して子供達をお風呂へと連れて行ってくれた。

「はい、お風呂はいつも夫が入れてくれててこの時間に夕食の仕上げしちゃいます」

飛雄くんが2人をお風呂へ入れてくれてる間にテーブルセッティングをしてそろそろお風呂から上がってくるかなというタイミングでバスタオルを広げてまず飛茉から捕獲する。

「や!およふくきない!」
「だめ。今日パパのお友達着てるから恥ずかしいよ?」
「...や!」
「あ、じゃあパパのお洋服着る?」
「や!翔ちゃんの着る」
「じゃあ飛空くんはパパの着る!」

もはやいつもの光景になりつつあるお風呂上がり後のお着替え拒否が、今日は少しマシでほっとする。日向くんの背番号と、飛雄くんの背番号が入った日本代表のユニフォームを着せて2人をテーブルに座らせ食事にする。

「いただきます!」

手を合わせ、声を揃えてそう言うと飛空も飛茉も美味しいとご飯を食べ始める。

「今日も美味ぇ。ありがとう」
「飛雄くんこそ今日もお疲れ様、いつもありがとう」

と夕食のタイミングでいつも一杯だけワインを飲むので乾杯をしてグラスを置く。

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「何?!高級レストランが見えたんだけど?!」
「わかる。名前さん指すらも綺麗」
「ねぇわたしが言おうとしたこと先に言うのやめてくれる?」
「てか!!!飛茉ちゃんパパのお仕事の取材着てるのに日向選手着るのやめな???」
「可愛すぎて死ぬわ。尊死する」
「2人ともニコニコでユニフォーム着てご飯食べてんの愛すぎるんですが?」
「それな...」

ぎゃーぎゃーと2人で言い争っていると、またスタジオの影山選手が話出して一瞬で静かになる自分達に笑いが込み上げてくる。

「お風呂はいつも影山選手が?」
「そっすね。なるべく一緒にいる時は少しでも何か時間を一緒に過ごせるようにしてます」
「お風呂ではどんなお話をされるんですか?」
「今日はママとこんなことしたよ〜とか、友達の話とか色々っすね」

影山選手が子供達とお風呂に入ってるのはファンの中では割と有名な話ではあるが、こうして本人の口からテレビで聞くとなにかこう胸にくるものがある。

「奥さんとも入ったりするんですか?」

と、芸人がぐっと踏み込んだ話をしわたし達もテレビの前で影山選手の返事を待ち構える。もちろんイエスだとわかってはいるが、本人の口から聞かされるのはまた別の興奮があった。

「名前さんに怒られるんでノーコメントで」

いやそれ!もう答えですよ!そんな心の声は全国のテレビの前の人とリンクしたのかSNSのトレンドに#影山夫婦を応援したいのタグと#お風呂は一緒のタグが並んでいてこれは絶対名前さんに怒られるんだろうなぁとにやにやしながらテレビは終わり番組が変わる。

「供給過多すぎてだね?」
「イタリア行ってからなかなか生で見れなくて寂しかったけどこれは元気出る」
「てかさ」
「うん」
「イタリア、行っちゃう?!」
「俺も今言おうと思ってた!!」

そんなこんなでわたし達、今度イタリアに行きます!!待っててね!!影山一家の皆さん!



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