小説 | ナノ


▼ はーちゃん様

「飛茉、翔ちゃんと結婚する!」
「あ?」
「翔ちゃんに結婚しよって言ったらいいよって言ったもん!」
「ダメだ」
「パパだってママと結婚したくせに!なんで飛茉はダメなの!パパ嫌い!」
「あ、こら!」

そう言って頬を膨らます飛茉は同年代の子供に比べたら少し大人びているところもあるが、年相応の子供で可愛くなってしまう。

「飛茉、結婚は16歳になってからね。まだ12歳だからできないよ」
「そうなの?」
「うん」
「それまでに翔ちゃんが別の人と結婚したらどうしたらいい?」
「それは翔ちゃんにおめでとうって言ってあげよう」
「いや!」

目に涙を浮かべながら嫌!とごねる姿はすっかり恋する乙女の顔をしていて、幼い頃から日向くんにずっと甘えっぱなしだった飛茉はまだ日向くん離れは出来そうにない。

「お兄ちゃんは飛茉の味方だよね?」
「ん?」

飛空は帰宅と同時に、飛茉に抱きつかれ状況が把握出来てないまま飛茉の頭を撫でていた。急に伸びた身長は飛雄の血を感じさせ、最近は後ろから見ても前から見てもよく似ていると言われていた。学生時代を知っている人からは本当にそっくりだとよく言われているが、飛空は思春期を迎えてもなお父親のことが好きで尊敬していたため似ていると言われることは嬉しいことだった。

「また父さんと喧嘩したの?」
「...してないっ」

飛茉は飛茉で、年齢を重ねるごとに名前によく似ていき飛雄に「飛茉とママどっちが可愛い?」「名前さん」と即答されいつも悔しい思いをしているとか。時折見せる表情や仕草は飛雄によく似ていて、今も唇を尖らせながら飛空に訴える姿は飛雄を思い出させるものだった。

「パパだって、ママのこと好きで結婚したのに飛茉は翔ちゃんと結婚したらだめなんだって!ずるい!」
「はは、その話か」
「笑い事じゃない!」
「わかったわかった」

飛空の体にくっ付いて離れない飛茉をずるずると引きずりながらリビングに入り、家族で食卓を囲みいつも通りの時間を過ごした。

「パパ、今までありがとう。私幸せになるね」

そう言って娘がウエディングドレスを着て目に涙を浮かべている姿を見て飛雄は飛び起きる。変な時間に目が覚め、ベッドを抜け出し水でも飲もうと冷蔵庫を開けていると背後に気配を感じて振り向く。

「悪ぃ、起こしたか?」
「ううん。だいじょぶ...」

まだ半分ほど寝ぼけている名前の姿があり、ぎゅっと抱き寄せ頬にキスをするとくすぐったそうに笑っている。

「飛雄くんこそ、体調悪い?」
「ちげぇ。嫌な夢見た」
「そうなの?」
「おう。飛茉が...いや、やめとく」
「何となく想像つくけど。ふふ」
「言ったらそうなりそうだから言わねぇ...」

飛雄の眉間にぎゅっと皺がより、名前の指がその皺を伸ばしていく。水を飲み干し、コップをシンクに置いて正面から名前のことを抱きしめて何度も唇を合わせる。

翌朝、ムスッとしたままの飛茉に飛空が話しかける。

「朝から可愛い顔が台無しだぞ」
「...そんなこと言っても、機嫌よくならないもんね」
「別に?まあでもにこにこしてた方が翔ちゃんも嬉しいだろうなぁ、って」
「ほんと?」
「ね?母さんもそう思うよね?」
「うんうん。あとね、日向くんは飛茉とパパが仲良しの方が喜ぶと思うな〜」

ね、パパ?と名前が優しく飛雄に助け舟を出すと「おう」と少し恥ずかしそうに牛乳を飲み干す。

「...パパ」
「ん」
「昨日嫌い、って言ってごめんなさい」
「俺も...悪かった」
「...仲直りする」
「こっち来い」

飛雄が飛茉を手招きし、影山家の仲直りを行う。影山家では子供の頃から兄弟喧嘩があると、仲直りに握手をしてからハグをする習慣がついていた。

飛雄と飛茉も握手をしてから、ぎゅっとお互いにハグをして顔を見合わせて思わず互いに笑顔が溢れる。

「ママもしちゃお〜!」

名前がふざけて飛茉の後ろからぎゅ、っと抱き付くと飛茉は嬉しそうに声をあげて「も〜!苦しい!お兄ちゃん!助けて!」とすっかりご機嫌で。

「飛空もおいで!」

と、名前が呼びかけ朝から4人でぎゅうぎゅうに抱きしめ合い「あはは」と笑い声で溢れるリビングは幸せそのものだった。



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