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▼ 前の席の影山くん

暑い、暑すぎる。茹だるような暑さに溶けそうになりながらも体育の授業を終えて教室へと戻る。

「むり、あつい」
「暑いって言うから暑いんだよ」
「いや普通に暑いからね?」
「これ使う?」
「えー!使う、ありがとう!わたしも買お!」

友人からシーブリーズを受け取り、遠慮なく首筋と腕に塗っていく。爽快感から、少し涼しくなったような気がする。教室に入るとクーラーが効いていてやっぱり体育館より教室の方がいいな、なんて友人といいながら次の授業の準備を始めた。

「影山くん、授業終わったよ」

今日の授業は全て終わり、放課後になる。授業が終わったにも関わらず目の前の席で未だ白目のまま寝ている影山くんの肩をぽんぽん、と叩いて起こすと大きい体がむくりと起き上がり眠そうにぱしぱしと瞬きをしていた。

「部活行くんでしょ?」
「...うす」
「弁当箱、忘れてる」
「アザス」
「部活がんばれ〜」

手を振り見送ると、影山くんは教室を出る前に振り返り「頑張ります」と真顔で返事をしてくる。影山くんって、会話あんまり続かないし愛想ないし、授業中は割とずっと寝てるけどたまに話すとバレーが本当に好きなんだろうなぁと感じる。

帰り際に体育館の前を通ると、ボールが飛び出してきて足元に当たる。そのボールを拾い上げると体育館から出てきた影山くんと目が合い「サーセン」と謝られ、ボールを力一杯投げて影山くんへ「へたくそ!」と笑いながら返す。

「あ?俺じゃねぇ...!」
「ごめんごめん、冗談。また明日ね」
「...っす」

汗を拭きながら影山くんが体育館に戻っていく。あ、ちょっと色っぽいななんて感じてしまい影山くんに今まで抱いたことのない感情を抱えていることに気づき、自分で驚いた。

「いや、ないない」

そもそもわたしの好みのタイプは年上だし、影山くんは顔はいいけどバレーのことしか考えてなさそうだし。特進クラスでもないわたしが言うのもなんだけど、バカだし。寝るとき白目向いてるし。

そんなことを考えながら、帰り道にドラッグストアへ寄る。今日友人に借りたシーブリーズがとてもよかったのでこれを機にわたしも買おうと決めていたのだった。そういえば友人から今日借りたのはピンク色だったような気がする、匂いを一つずつ確認して1番気に入ったのが水色だったのでそれを買って帰る。

翌日、体育の授業終わりに「じゃじゃーん!」と新品のシーブリーズを取り出し友人に自慢する。

「さっそくかよ」
「えへ、昨日めちゃくちゃ涼しくなったから買っちゃった」
「水色もいい匂いだよね」
「ピンクか迷ったけどね〜!」

なんて、会話をしながら教室へ戻ると影山くんが水色のシーブリーズを手にして自分の首筋、腕、服の中に手を突っ込んで入念に塗っている姿が見える。なんだかじっと見てしまうと恥ずかしくて、思わず目を逸らすと影山くんから「あ、」と声をかけられる。

「ん、何?」
「俺も同じっす」
「ああ、これ?昨日買ったんだよね」

なぜか少し嬉しそうにシーブリーズを見せてくる影山くんが面白くて笑っていると、ふと蓋の色が違うことに気がつく。

「あれ?そんなの売ってたっけ?」

影山くんの手から蓋だけピンクのシーブリーズを受け取って眺める。

「交換したから、売ってはねぇ」
「、?蓋だけ交換したの?」
「おう」
「へぇ〜...」

蓋の色が違うシーブリーズ可愛いじゃん、と思っていたので非売品だとわかりがっかりしながら影山くんに返して席に着く。今日も影山くんは睡魔との戦いに敗れて頭を机に打ち付けていた。痛そう。

授業も終わり帰宅部のわたしは今日もさくっと家に帰り、お風呂に入りご飯を食べる。ご飯を食べながらテレビを見ているとシーブリーズのCMが流れてきて「あ、この女優さん可愛いんだよな」なんて呑気にテレビ画面を見ていた。

「え、...あれって」

テレビのCMから流れてくる情報と影山くんが結び付かず、1人で困惑することになる。

「影山くんってもしかして、彼女いる、、、?」

わたしの独り言は誰にも拾われることなく、ただ1人で影山くんの秘密を知ってしまった気がして無駄にドキドキしてなかなか寝付けなかった。

その日からただのクラスメイトだった影山くんのことを、誰かの彼氏かもしれないと少し違う目で見てしまい勝手に1人で恥ずかしかった。今日も影山くんが使うシーブリーズは、蓋の色だけピンク色をしている。



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