小説 | ナノ


▼ 隣の席の影山くん

影山くんは、控えめに言っても勉強が苦手。平たく言うとバカだった。それでも顔は良いし、全国に行ってるバレー部のレギュラー。しかもすでにユースとして日本代表にもなっているらしい?モテないわけがなかった。

かくいう私も、あわよくば影山くんとお近づきになりたいしむしろ席が隣の私は他の子たちより一歩リードしていると思っていた。

「苗字サン、すんません」
「ここ、テスト出るって言ってたとこ。そこは多分出ないから大丈夫」

授業が始まる前から寝ていた影山くんに、申し訳なさそうに声をかけられる瞬間が私は割と好きだった。きっかけは見かねた私から声をかけたはずだけど、最近はもう影山くんから声をかけてくれる。嬉しい。

「いつもアザス」
「部活大変そうだね?」
「バレーは楽しいっす」
「赤点取らないように頑張んなきゃ」

ガッツポーズをし、影山くんを励ますといっきに顔面から血の気が引いていき見たことのない弱気な影山くんがそこにいた。

「今回やばい?」
「今回ってか、毎回やべぇ」
「...教えようか?」
「え!いいんすか!」

目をキラキラさせて喜ぶ影山くんが、可愛くて「あわよくば」なんて思っていた下心は多分いっきに恋に落ちた。

そこから私たちはお昼休みに勉強会をすることになり、テスト前の部活停止中はほぼ毎日教室で放課後勉強に取り組むことになった。

「...うん!合ってるよ!影山くんすごいじゃん!」
「アザス!苗字さんすげぇわかりやすく教えてくれて助かります」
「これでなんとか影山くんの赤点は回避できそう!」

イェーイ、とハイタッチをして笑い合う。あれ?ちょっと良い感じじゃない?と高鳴る心臓はバレないように笑顔を貼り付けていると影山くんの携帯が鳴っている。

「電話、鳴ってるよ」

そう告げると、見たことないくらい優しい顔をして携帯を手に取る影山くん。なんだか、良くない予感がして耳を塞ぎたくなるがどう考えても挙動不審になってしまうのでそのまま聞いてしまうことになる。

「もしもし?あ?なんで?」

影山くんが驚きながら教室の窓側に駆け寄り、窓から校門を覗き始めた。

「何で来てんだボゲェ!動くなよそこ」

影山くんが電話を繋げながらドタバタと帰る準備をする。私が呆気に取られてその場に立ち尽くしていると「悪ぃ、今日は帰る」と申し訳なさそうに教室から飛び出して行った。

(...あ!影山くん、今日の課題忘れてる)

机の上に放置された影山くんの課題を掴み影山くんの後を追いかけるがさすがスポーツマン。全然姿が見えず結局学校の外まで来てしまった。校門のところで影山くんの姿を見つけ「影山くん!」と声をかけながら走って駆け寄る。

影山くんは呼ばれていることに気づいていなくて、もう一度名前を呼ぼうと息を吸い込むと「飛雄、呼ばれてる」と影山くんの影から白い制服の女の子が見えた。

1人じゃなかったことの驚きや、女の子と一緒にいることの驚きで頭が真っ白になる。何も言えずに固まっていると、女の子が私の手元の課題用紙に気づく。

「飛雄のじゃない?持ってきてくれたんじゃない?」
「そ、そう!影山くんこれ明日提出だから!忘れちゃダメだよ」

そう言って影山くんに無理やり手渡すと「あ、アザス」と驚きながら受け取ってくれた。任務を遂行した私は頭をペコペコと下げながら2人を残して教室へと戻ろうと足を進めるが2人の話し声が聞こえてきて思わずゆっくり歩いてしまう。

「あの子?飛雄が言ってた子?」
「あ?おう」
「ふーん。勉強ならわたしが教えてあげるっていつも言ってんじゃん」
「名前は怒るからいらねぇ」
「はあ?よくそんなこと言えるね?!」
「お前は怒ってるより、笑ってる方が可愛い」

その言葉と普段の影山くんの姿が結び付かず、驚いて振り返ってしまうと女の子と目が合う。女の子はさほど驚いた様子もなく私の方を見て不敵に笑った。その顔がとても綺麗に見えて不快な気持ちより羨望が勝ってしまう。

「じゃあ今日は飛雄の家で優し〜〜く名前様が教えてあげるね」
「やめろよ気持ち悪ぃ」

私は2人のその会話を最後に走り出してしまった。明日から私は影山くんと今まで通り接することができるんだろうか。はじまる前に、終わった恋はどうすればいいんだろう。



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -