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▼ 日向翔陽誕生日2021

「「「せーの!日向センパーーーイ!!お誕生日!おめでとう!ございマース!!」」」

廊下で日向と話していると、校庭にいる一年生たちから大きな声で呼ばれる。日向はこれでもか、というくらい窓から身を乗り出して「ありがと〜!!!」と満面の笑みを振りまいていた。日向が顔を見せた途端下から「きゃーーー!」と女子生徒達の悲鳴が聞こえ日向が満更でもない様子で手を振り続けていた。

「じゃ、私行くわ」
「ちょっと!まだ話の途中じゃん!」
「いや、話の途中にどっか行ったの日向じゃん!バカ!」
「何?妬いた?」
「は?黙れよこのオレンジ頭」

日向の背中を思いっきり叩くと「い、痛ぇ」と非難してくる。が、私だって怒ってるんだから許して欲しい。さっきから何回も「誕生日おめでとう」って言いたいのに周りに先越されてばっかりで、もう言わない。絶対祝ってやんない。後輩にキャーキャー言われて鼻の下伸ばしてデレデレデレしやがってばーかばーかばーか!そんな私の心の声が聞こえたのか、日向が私の機嫌を取ろうと話を何個か振ってくる。

「で、まだ祝われてないんですけど」
「別にいーじゃん。ほら、さっきの子達も可愛かったし私が祝わなくてもみんな祝ってくれるでしょ?」
「俺はお前に祝ってほしーの!」
「なんでよ」
「なんで、ってそりゃあ、お前...」

日向が頬をかきながら何を言うか迷っているようだった。こうして日向を困らせることが、私の楽しみだし今私のことで困ってる日向を見るとさっきまでのイライラが一気に収まって気分がいい。

「好きだから、に決まってるじゃないですか...!!」
「へ〜!日向、私のこと好きなんだ?」
「好きだよ。だから何回も付き合ってって言ってるだろ」
「ぜーーーーったいにやだ!」

わはは!と笑い飛ばすと、日向もつられて大声で笑う。そう、私は日向に好かれているし私だって日向の事が好きだ。でも日向との今の心地いい関係を壊せない。彼氏になったらいつか別れる日が来てしまう、でも友達ならずっと好きでいれる。我ながら子供っぽい理屈だってことはわかってるけど、それでも私の人生の中から日向が消えてしまうかもしれないことの方が嫌だった。

「今日こそ誕生日だから付き合えると思ったのにな〜?」
「甘いな。誕生日だからって優しくすると思ったら大間違い」

そう言って笑いながら日向の頭をぽんぽんと撫でつける。一年の時は背伸びしなくても届いたのに、今は背伸びをしなきゃいけない。それだって寂しくて仕方ない。こうやって直接誕生日を祝えて、バカなこと言い合って、笑って泣いて喧嘩して。あと何回できるんだろう。こんな楽しいのに、寂しくて寂しくてたまらない。こんな気持ちにさせてくる日向のことがむかついて仕方ないから、絶対に好きだって言ってやんない。

「日向」
「んだよぉ」

完全に拗ねてる日向の口に今日のために作ってきた、お手製のプロテインバーを突っ込む。

「残したら許さないから。誕生日おめでとう」

残りも無理矢理手に渡して走って教室へ戻ると今日1番の大きい声で「ありがとう!!!!めっちゃ美味い!!!!天才!!!!!!」と叫んできてクラスメイトに茶化される。ずっと、ずっとこのままが続けばいいのに。大人になんてなりたくない、卒業なんてしたくない。

...ブラジルなんて、行かないでよ。



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