小説 | ナノ


▼ 花凛様

今日はアドラーズVS グリーンロケッツの試合で、朝から子供たちとわくわくしながら会場へ向かう。

今日は井上さんの手違いで関係者席が用意できなかったそうで、周りの方にご迷惑にならないか心配だったが子連れで自由席で見ることになった。
井上さんが一緒に席を確保しようかと提案してくれたが、さすがにそこまでしてもらうのも迷惑だし目立ってしまうのも得策ではなく子供たちと手を繋いで二階席でうろうろする。飛雄くんのファンの方とあまり近くにいるのも良くないかな、と見かけたことのある方を避けて席を探しているとちょうど真ん中あたりで両方のチームが見える辺りに来たので席を探してきょろきょろしていると男の人と目が合う。

「よかったら、ここ詰めますよ?」

そう言って声をかけてくれた男性の方を見ると、バンドマンのような独特の服装をされていてとても綺麗な顔立ちの方だった。

「瀬見さん、子連れのナンパはダメですよ」
「は?!違うわ!白布お前ほんと可愛くねぇな」

わいわいと賑やかに話している男性たちは快くわたし達の席を開けてくれ、おしゃべりな飛空の相手もよくしてくれた。

「飛空くんは影山選手のファン?」
「うん!ママもひぃちゃんも!パパ好き!」
「...パパ?あ、もしかして...!」
「うん!飛空くんのパパだよ!」

そう言って飛空がコートにいる飛雄くんを指差してにこにこと笑ってみせる。飛茉は絶賛人見知り中でコートに背中を向けたままわたしの膝から微動だにしない。

「あ〜〜〜!やっぱり!正直ちょっと似てるなぁと思ってた!てか、じゃあ噂の美人奥さん...!」

そう言ってみんなの視線が一気に集まりわたしは苦笑いで返事をするしかない。そこへもう1人男性が合流しに来るが、わたしはその人の見覚えがあった。確か、そう!

「天童さんだ...!」
「ありゃ?誰か結婚した〜?」
「してねぇ、影山の家族だ」
「影山ってあそこにいる影山?」

そうそう、とみんなが頷き天童さんと目が合う。牛島選手のお友達の天童さんが、仲の良いみなさんということは。もしかして、もしかするのだろうか?

「先月牛島選手から、天童さんのショコラ頂きました...!とても美味しかったです!」
「あ、...あー!!!若利くんが!!!女の人にあげたって!?なんだ〜!そういうことネ!」
「飛空くん食べれなかったよ!」
「お酒入ってたからネ!今度新作また送るから連絡先交換しよ〜?」
「え!いいんですか...!」

すぐにスマホを取り出し天童さんの連絡先を頂き、あの有名なショコラティエさんとお知り合いになれてしまったとわたしは内心大興奮だった。

「あ、言い忘れてたけど俺ら若利くんと工の元チームメイトね!つまり影山とも知り合いってわけ!」
「白鳥沢学園のOBの方たちってことですよね!」
「正解〜!今日はどっちが勝っても俺ら喜ぶケドごめんね!」
「いえいえ!お気遣いなく...!」
「それにしても息子は影山そっくりで、娘は奥さんそっくりなんですね」
「飛茉?ご挨拶できる?」
「...こんにちは」

わたしの服をぎゅ、っと掴んだまま飛茉は小声で挨拶すると「可愛い〜!!!」と大きな声で言われて恥ずかしくなったのかまたわたしの胸に顔を埋めていた。

試合がいざ始まると、さすが皆さん経験者。しかも強豪校出身なだけあり真剣に見ていた。あっという間に試合は終わりを告げ、ふぅと一息をつくと口々に「おめでとう!」と声をかけられてくすぐったい気持ちになる。飛茉は天童さんの変顔がすっかり気に入ったようで抱っこをねだるようにまでなっていた。飛雄くんと牛島選手の前に天童さんが飛茉を抱っこして連れていった時の2人の驚いた顔が面白すぎて、しばらくネタにされるだろうなと笑ってしまっていた。

「牛島さん!次は勝ちま、...?!?!」
「五色か。次も勝つ」
「え?!」

五色選手が驚くのも無理はなく、天童さんからなぜか牛島選手にバトンタッチされた飛茉は嬉しそうに牛島選手に抱かれていた。

「いつの間に...こ、こど、...!か、可愛い...!天使、ですか?」
「いや、影山の娘だ」
「確かにお兄ちゃん影山にそっくりだ」
「飛茉、ご挨拶できる?」
「影山飛茉です...!」
「影山飛空です!こんにちは!」
「よくできたね〜」
「おっ...!」
「お?」

天童さんとOBの方達が面白がって五色選手を見ていると、本当に仲が良かったんだなぁと感じてしまう。

「お綺麗ですね!!!!!」
「あっ、ありがとうございます、?」
「おい五色!名前さんは俺のだぞ!」
「いや、ちが...!つい驚いて!そういうつもりじゃ、」

五色選手は顔を真っ赤にして手を顔の前でブンブンと振っていて可愛らしく思える。飛雄くんがわたしの目の前に立ちはだかると、限界だと言わんばかりに皆さんが爆笑する。

「初対面の人妻、旦那の前で口説くなよ。お前ほんとバカか?」
「し、白布さぁん...!違います!俺!」
「へぇ〜工くんは美人がタイプなんだネ!」
「ちょ、天堂さんもやめてください!影山の顔が、まじで怖いんで...!おい、影山も冗談だからそんな睨んでくんな!」
「ア?名前さんは綺麗だろうが!」
「そこ?!」
「ちょっと、飛雄くん...!」
「飛空くんのママ可愛いな〜?」
「うん!ママが1番可愛いってパパがいつも言ってる!」
「わかとしくんもママかわいい?」
「そうだな、でも飛茉も可愛いぞ」
「ふふ。やったぁ」

普段からよく会ってるだけあり、飛茉は牛島選手にすっかり懐いていてまるで付き合いたてのカップルのような会話を繰り広げていた。

「う、牛島さんに幼児趣味があったなんて」
「それは違う。誤解だ」
「さ!負けた工くんのおごりで飯行こ〜!久しぶりの日本食楽しみだったんだよネ〜」
「影山たちも一緒にどうだ?」
「いや、いいっす。今日は家で名前さんの飯食いたいんで帰ります」
「...まさかあの烏野のセッターがこんなに愛妻家になるなんてな」

白鳥沢学園の皆様とは県内同士で戦ったこともあるそうで、当時の飛雄くんを知るみなさんが感慨深そうにわたし達を何度も見比べる。

「今日は一緒に観戦できて楽しかったです。ありがとうございました」
「俺らも普段子供と関わりないから楽しかったです!」
「おにーさんたち遊んでくれてありがとう!」
「お〜!ありがとうな!また遊ぼうな?」

ぺこ、っと頭を下げてくれた方が「よかったら俺、バンドもやってるんで」とCDを差し出してくれ受け取る。聞いたことのあるバンド名で思わず驚いてしまう。

「じゃあ今度ライブのチケットとか送りますよ!」
「ええ、いいんですか?!」
「連絡先...は、若利経由で!」

飛雄くんの目つきが相当悪かったのか、瀬見さんは出しかけたスマホをそのままポケットに閉まって笑っていた。どうやら天童さんと連絡先交換したことはあとで飛雄くんに説明した方がよさそうだな、と思う。

「素敵な方達ですね」
「ああ、自慢の仲間だ」

そう言って微笑む牛島選手がとても優しくて、わたしも胸が暖かくなった。

後日、天童さんから大量のショコラと子供向けの物も送られてきてチョコレートは一日一粒と影山家では取り決めが行われた。



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