小説 | ナノ


▼ 悠灯様

影山はアドラーズに入ってから何人か女性ファンがついていたが、どの子も長続きせず入れ替わり立ち替わり新しい子が増えまたその子が違う選手へ、というのが多く名前さんは珍しいタイプだった。

何を隠そう影山は作り笑いは下手だし、ファンサもしない、ファンの名前も覚えるのも苦手で何より字も汚い。せっかくルックスもよく我が社の広告柱になってくれそうな選手を手に入れたのだが、当の本人と広告の相性が悪くなかなかうまく進まない。俺だって上から女性ファンを獲得する様に言われてるんだ...察してくれよ...

そんな影山がある日突然サーブのタイミングで急なファンサをぶち込んできて、誰?!何?!と驚いて相手を見ると名前さんだったのは今となっては懐かしい事件だ。

名前さんはいつも影山が言いたそうな言葉を先回りして会話に取り入れたり、影山が何かを言おうとするとちゃんと会話を止めて待ったり、何かと影山と相性がいいんだろうなと俺は呑気に考えていた。が、高校生活もバレー一色で彼女も居ない。そんなところにあんな綺麗なお姉さん、しかも自分のことをあんなに応援してくれて好きだと言ってくれる。

「そりゃ、嬉しいよな...」

着替えを終えた影山を見ながらふと溢してしまった独り言を影山に拾われる。

「なんすか?」
「いや、お前今日機嫌良さそうだなって」
「うす。今日調子すげーよくて、あと、...いやなんもないっす」
「いやなんだよ!気になるだろ!」
「ファンの人が、ファンサしたら喜んでくれてて嬉しかったっす」

それ!名前さんのことだろ!と突っ込みたくなる気持ちを抑え、俺は愛想笑いで乗り切った。

いつもこうならいいのだがこの日の影山は試合後から急に機嫌が急降下し、顔面に「面倒臭い」とデカデカと書きながらファンの対応をしていた。
まあ、ファンの子達も冷やかしというか、なんというか。少し対応が難しそうな子達だったので俺も様子を気にしながら片付けに追われているとあることに気づく。あれ?名前さんが今いるの牛島のとこじゃん。それに気付くと影山がチラチラ牛島の方を睨んでいるのも理由がわかり、お前どんだけわかりやすいんだよとまた突っ込みそうになったがグッと堪えた。

「影山選手、そろそろ控室戻ります」
「あざした」
「え〜!まだ飛雄と話したいんだけど!おじさん邪魔すんのやめてくれません?」
「おじさんもお仕事だからね。はいまたお待ちしております」

失礼な女子高校生だな、と思いながら影山と廊下を歩いてると明らかに影山の機嫌が悪くどう声をかけようか決めあぐねる。

「あの」
「どうした〜?」
「いつも来てくれるファンが、俺のとこに来ないのってなんか理由あると思いますか?」

はいそれ、名前さんのことだろ。と思いながらも俺は優しい大人なので「他の選手の友達付き合いとかあるだろ」と返してやる。名前さんは牛島のファンと交流してるようなので、俺の推測も間違っては無いだろう。納得したのかしてないのか、よくわからない返事だったが次の日の影山が絶好調だったので問題はないはずだ。

そして俺はある日上司に呼び出され、影山が特定のファンだけに贔屓してるのでは無いかという掲示板の書き込みを見せられる。そこに書いてあること自体は事実無根だったが、実際俺から見ても影山はかなり名前さんを特別扱いしてる。

今日もいつもは最初の方に話してすぐ帰る名前さんがなかなか影山のところに来なかった。今日は話さないのか?と影山を帰そうとするが名前さんが来るまで絶対に戻らなかった。いや、俺の言うこと一個くらい聞いてくれよ。そんなことを思いながら、俺は上司から呼び出された手前軽くだが裏に戻ってから影山に注意をする。

「特定のファンの子だけ贔屓してると周りにその子が虐められるからあんまわかりやすくすんなよ」
「あー、でももう、大丈夫っす。付き合ったんで」
「誰と?何が?」
「俺と名前さんです。んで、ファン辞めてくれって昨日言いました」
「は、?」

そういえば今日名前さんの顔色が良くなかったことを思い出す。そしてかなり思い詰めた表情を今思えばしていたような気がする。絶対にこれ影山が1人で暴走してるだろ。いつお前ら付き合うタイミングあったんだよ。

「ファンとは付き合えないんすよね?」
「待て待て待て、お前バカなのか?」
「何が、すか?」
「あの子はお前のことバレー選手として応援したいからちゃんと毎回試合見に来てるんだろ?!付き合いたいだけならとっくにDMとかでアプローチしてきてるだろうし、出待ちで連絡先とか渡してくるはずだろ?!それをせずにいつも試合見て会場で話して真っ直ぐ帰って、って善良なファンにお前は何を言ってんだ」
「え、じゃあ名前さんは俺のことずっと好きでも付き合ってくんねぇってことすか?」

影山のバカさに俺は思わず頭を抱える。

「知るかよ!とりあえず俺がお前のファンで、お前からファン辞めろなんて言われたら泣くね!確実に泣くしお前のこと嫌いになるわ!」
「俺のことずっと好きでいてくれるって約束しました!」
「影山、悪いことは言わんから次、もし苗字さんが次も会いに来てくれたら絶対に謝れよ」
「、っす」
「真剣にお前のバレーを応援してくれてる人に今のお前は失礼極まりないことしてるってわかっとけ」

と、格好つけて若者に説教したのはいいがその3日後に帰省していた影山から「ちゃんと付き合いました」と報告されて俺は混乱することになる。

そして、そんな2人が結婚して「名前さんとこうして一緒になれたのは井上さんのおかげでもあります」と影山から珍しくまともなことを言われ俺は思わず泣きそうになった。いや、俺だって早く結婚したい。



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