小説 | ナノ


▼ 影山と隣人

休みの日、今日は絶対に夕方まで起きないぞという固い意志の元徹夜明けの体を休めようとお風呂に入る。お風呂に入り、朝から缶ビールを開け取り溜めてた録画を見ながらうとうとしそろそろ寝るかぁとベッドに向かおうとするとインターホンが鳴りイラッとする。通販も何も頼んでないのに、と思いながらインターホンを出ると「Uber eatsです」と一言。

「また?!」

これで何度目かになる誤配達で、わたしは未だに会ったことのない隣人にイライラがピークに来ていた。いつもなら置き配をこそっと横の部屋に移動させてピンポン鳴らして部屋に引きこもるところだが、今日こそは!と意気込んで部屋着にすっぴんのまま隣人のインターホンを鳴らす。

「はい」
「あの、影山さんですか?隣の苗字と言いますが少しお時間よろしいでしょうか?」

てっきり隣人は女性だと思い込んでいたので、男性の声で少し怖気付いてしまうが今日こそは絶対に言うぞ。そう思い、扉が開くのを待つ。扉から出てきた人を見て驚く。まず、バカみたいに背が高い。見上げないと彼の顔を見ることができなくて、さらに驚いたのは顔がとても良いことだった。

(すっぴんで来るんじゃなかった...)

と後悔したのも一瞬で、我に帰ったわたしは目の前の彼に我が家へ届いた宅配の食事を突き出す。

「これ!毎回かわかんないですけど、わたしの家に誤配達されてるんです!」
「あ、すいません」
「今日わたし徹夜明けで、インターホンで起きるのかなり迷惑なので配達の方によく言っといてもらえますか?」
「わかりました」

こくん、と頷く影山さんは見た目よりかなり幼く感じて思わず可愛いと思ってしまう。見た目がいい人はずるいなぁ、なんて思いながら要件も終えたので自分の部屋に帰ろうとすると引き止められる。「ちょっと待っててください」と部屋に帰って行った影山さんを玄関の外で待っていると慌てた様子でガチャ、とまた扉が開く。

「これ、お詫びです」
「え、いや!そういうつもりではないんですけど...」

そう差し出されたビニール袋を無理矢理受け取らされ、玄関が閉められる。申し訳ないな、と一瞬思うがこちらが散々迷惑をかけられてるんだからまぁいいかとビニール袋の中身を取り出す。中にはわたしの大好きな銘柄のビールと牛タンのおつまみが入っていて、影山さんも酒飲みなんだと少し親近感が沸いてしまった。いや、だから。イケメンだから許すとかそういうんじゃなくて。と、誰に言い訳してるんだとセルフツッコミをしながらよく冷やされたビールを一気に煽りやっと眠りにつけた。

夕方まで寝るつもりがすっかり夜になり、自炊も最近サボっているので家に何も食べるものがなく仕方ないのでコンビニへ向かう。ガチャ、と玄関のドアを開けると隣のドアも同時に開き思わず目を合わせてしまった。

「あ、こんばんは」
「こんばんは」

影山さんはどこかへ走りに行くのか、上下ジャージ姿だった。一緒にエレベーターに乗り一階へ降りる。

「さっき頂いたビールと牛タンのおつまみ、美味しかったです」
「もう飲んだんすか」
「今日は休みなのでいいんです」
「良かったっす。俺飲まないんで」
「え?!飲まないのにビール置いてたんですか?」
「はい。成人してすぐ飲もうと思って、結局まだ飲めてないっす」
「えー!あのビール美味しいのに!自分で飲んだ方がいいですよ!」

影山さんがくれたビールはメジャーなものではなく、わたしが普段から買い溜めするほど売ってるところをあまり見かけないビールだったのでてっきり酒飲みかと思ったら違うらしい。マンションから出るとひんやりとした風に思わず体を震わせる。

「そんな薄着でどこ行くんすか」
「ん?そこのコンビニ」
「ああ、よく行ってますよね」

聞き間違えかな、と思いスルーすると影山さんが「仕事、大変すか」と世間話を振ってくれる。コンビニまでの道中仕事の愚痴を聞いてもらいその場で別れるとやっぱり走る予定だったようで、そのまま走り去って行った。意識高い系男子か?ジムとか通ってるのかなぁとどうでもいいことを脳内で考えながらお目当ての物をカゴに入れていく。ふ、と雑誌コーナーで立ち止まると影山さんと目が合った。影山さん、と、目が、合った?一冊の雑誌を手に取ると表紙には影山さんの姿がありユニフォームを着てるようだった。あれ?もしかして、凄い人なのかなとその雑誌を買い家に帰って読む。やはり見間違いではなかったようで、雑誌のインタビューに「影山飛雄」と記載がある。

「飛雄、って言うんだ」

影山さんに次会ったらバレー選手なんですね!と声をかけようと決めたが、なかなかタイミング良く会うこともなく数日が過ぎ、またインターホンが鳴った。

「いや、またかよ!」



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