小説 | ナノ


▼ 卒業

「嫌や!!!!!!!!!」

稲荷崎高校の卒業式が終わり、バレー部全員で3年生に感謝を伝えその場もお開きになりそうになった時マネージャーの二年生が北に泣きついた。

「北さん卒業なんて嫌や!耐えられん!人でなしのアホの双子と性格悪いやつ置いて卒業なんてやめてください!!!」
「俺は留年せんよ」
「とにかく無理です!北さんおらなやっていけへん」
「大丈夫や、お前はいつもちゃんとやっとるよ」

わんわんと泣き喚く名前を、子供をあやすように背中をトントン叩いてあげる北。その周りには笑いを堪えているようで堪えられていない双子や角名が立っている。角名に至ってはスマホで名前の号泣している様を録画しているようだった。

「お前らあんまり名前のこと虐めたらあかんで」
「そんなイジメなんてしてません!イジってるだけです!」

侑があっけらかんと答える。

「お前らが名前のこと可愛くて大好きなんはよーわかるけどな」
「そんなんちゃいます!」

治が間髪入れずに答える。

「名前はちゃんと頑張ってるんやから、たまには労ったらなあかんで」
「コイツ北さんの前だから良い子ぶってるだけで裏ではよくサボってますよ」

角名がスマホで撮影を続けながら答える。

「うっさいねん!北さんの前で可愛こぶって何が悪いんじゃ!」
「ほんで名前は俺が卒業するから寂しいんと違って、侑たちを抑える俺がおらんなるから嫌なんか?」
「ちゃいます!北さんがおらんくなるからに決まってます!寂しくて死にます!」

うう、とすっかり涙の乾いた名前は泣き真似をした後北を見つめる。

「ほんなら付き合おか。そしたら寂しないやろ?」

え、と名前が言う前に周りから大声でヤジが飛ぶ。当人の名前は何を言われたか理解するまでに数秒要し、ぼんっと音が出るくらいの勢いで顔が真っ赤に染まり上がった。

「きききき北さん!コイツのこと好きなんですか?!正気ですか?!コイツ確かに可愛い顔してますけど中身ほぼゴリラですよ?!」
「侑、人の彼女にゴリラは酷いやろ。なぁ名前?」
「今日は...エイプリルフールですか?」
「あかん名前が壊れてもうた」
「エイプリルフールは4月だろ本当バカ」

魂が抜けかけている名前の手を取りぎゅ、と握りながら北は名前に話しかける。

「今日から俺の彼女でええよな?」
「は、はいっ!」
「いつも元気で、明るくて、誰とでも仲良くなれてみんなから愛されてる名前のことがずっと好きやったで」
「わ、わたしも北さんのことずっと好きでした...!」

「さ〜帰ろ帰ろ」という双子の言葉ともに周りのギャラリーも引いていき名前と北の2人になる。

「ほな帰ろか」
「卒業、おめでとうございます!」
「ありがとう」

名前の手を取り3年間過ごした学び舎を後にする。次の日名前が教室に入るとクラスメイトほぼ全員が昨日の動画を見ているところで朝から名前の怒鳴り声が教室に響き渡る。そんなところも、北にとってはどうやら可愛いらしい。



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