小説 | ナノ


▼ ウォル様

飛雄くんと結婚して、いくつかの季節を一緒に過ごし何個かわかったことがある。一つ、飛雄くんは朝シャキッとするまですこし時間がかかるし、その間はぽやぽやしてて世界一可愛い。あんまり可愛い可愛い言い過ぎると飛雄くんは拗ねてしまうので言わないようにしてるけど、それすらも可愛いってことに本人はまだ気づいていない。可愛い。

今日は最近遠征続きだったので、久しぶりにゆっくりできるオフだった。そのためいつもより飛雄くんは少し長めに寝ている。あまりにも寝顔が可愛いので起こしにきたわたしはしばらく起こせずにいた。サラサラの髪の毛を手に取り頭を撫でていると飛雄くんがもぞもぞと起きようとしている。

「おはよ」
「ん...」
「もうちょっと寝る?」
「...ん」

まだ半分ほど寝ているであろう飛雄くんが可愛すぎて頬やおでこにキスをしていると力強い腕で引き寄せられわたしもベッドに逆戻りする。

「ふふ、かわい」
「ん」

寝ぼけたままの飛雄くんがキスを返してきてくれて、鼻同士をくっつけたりして遊んでいるとやっと起きたのかバチッと目が合う。少し枯れた声で「名前さん」と呼ばれて返事をする。

「飛雄くん、おはよ」
「おはよう。なんか良い匂いする」
「今日は和食朝ごはんです」
「違ぇ、名前さんの匂い」
「え?そう?」
「1番好きな匂い」
「わたしも飛雄くんのここ、好きな匂いだよ」

飛雄くんの首筋に顔を埋めると、くすぐったいのか身を捩られる。飛雄くんの手がわたしの体に伸びてきてそういう行為をはじめようとしてるのが手に取るようにわかる。

「ダメ。今日デートしてくれるんでしょ?」
「1回だけ」
「飛雄くんのその言葉はもう信じないって決めたもん」
「...っす」
「帰ってきたら、ね?」

そう告げてキスをすると飛雄くんは頭も起きたのか、わたしの頬にキスを落とし寝癖のついた頭を撫でながらシャワーを浴びに向かった。お風呂あがりに日焼け止めを顔に塗ってあげると気持ち悪いのか「やめろ」といつも嫌がる。けど、せっかくの綺麗な白い肌が焼けてしまうのは嫌なので毎回嫌がられてもちゃんと塗ってあげている。

朝ごはんを終え、飛雄くんに選んでもらったワンピースを着て外に出る。飛雄くんはすぐに気づいたようで「あ、それ」と少し嬉しそうにワンピースの裾を掴む。

「気づいた?」
「すげぇ、似合ってます」
「ありがとう。飛雄くんも格好いいよ」
「っす」

飛雄くんはバレーのことを格好いいと褒める時は照れないのに、普段の何気ないことを褒めると割と照れるので可愛いなぁとにやにやしてる顔を隠しながら手を繋ぎ隣を歩いた。

買い物を終え、カフェでお茶をしていると飛雄くんのファンの子がいたようで声をかけてきてくれた。

「影山選手、ですよね?」
「はい、そうっす」
「今声かけるかずっと迷ってたんですけど、今修学旅行で東京来てて、中々来れなくて、その、達私もバレーやってて...!ファンです!」

制服姿の女の子2人組はどうやら2人ともバレーを高校でやっているそうで、緊張してるのがこちらにも伝わってくる。わたしは「お手洗い、行ってくるね」とその場を去り飛雄くんに終わったら連絡してねとだけ連絡を入れて、少し1人を満喫していた。

「苗字?」

不意に旧姓で呼ばれ振り向くと、大学時代の友人が驚いた様子で立っていた。

「佐藤くん?」
「おー、久しぶり。相変わらず美人で目立ってたぞ」
「はいはい、ありがとう。大学卒業ぶり?くらい?」
「お前集まり全然来ないからな。たまには来いよ」

基本的に土日は飛雄くんの試合を観に行っていたので、大学卒業してから友人と会う機会はすっかり減ってしまっていた。佐藤くんとは大学のゼミが一緒で在学中はよく徹夜でレポート仕上げたり、ゼミの飲み会に行ったりとよく顔を合わせていた。
当時の距離感で話してくれる佐藤くんと立ち話を続けていると、指輪に目線がくる。

「高そうな指輪してるな」
「ふふ、いいでしょ」

そう言いながら指を揃えて顔の前に持ってくると「記者会見かよ」と当時の距離感で話してくれる佐藤くんが面白くて2人で思い出話に花を咲かせていた。

「苗字、何になったの?」
「影山になったよ」
「どっかで聞いたことあるな...大学に影山っていたっけ?」

佐藤くんが聞いたことあるのは当たり前だった。当時のわたしはちょうど飛雄くんに出会った時期だったのでゼミのメンバーやバイト先の人、色んな人に飛雄くんの話をしてたからだ。飛雄くんのことを説明しようと口を開くと目の前が背中で何も見えなくなる。

「この人に何か用すか?」
「えっ、影山...!あっ!?バレー選手の!」
「はい。影山ですけど」

一瞬の出来事で目の前に立ちはだかった背中が飛雄くんだということに気付くのが遅れ、会話に出遅れる。後ろから大学時代の友達と伝えると「ナンパされてるのかと思った」と少し怒った様子で返事をされる。

「あ、佐藤です。はじめまして」
「影山です。いつも妻が世話になってます」
「奥様とは大学が一緒で...ってか、おま!影山選手って。え?!あの?ずっと言ってた?」
「う、うん。色々あって最近結婚したの」
「はぁ〜〜〜〜〜、すげぇ。おめでとう!」
「ありがとうございます。じゃあ、俺らデートの途中なんで」

飛雄くんがやや強引に話を切り上げてわたしの腕を引っ張ろうとするので待ったをかけて佐藤くんにお別れだけ伝える。色々察してくれて面白そうにされたのが解せないが、ひとまず目の前の飛雄くんの機嫌を直すことが最優先事項だった。

「電話くれてたんだよね?ごめんね?」
「...おう」
「怒ってる?」
「怒ってない。妬いただけ」
「ふふ」

ダメだ。我慢しようと思ってても愛おしくて可愛くて思わず笑ってしまう。飛雄くんはずんずん進む足を止めて、人気のないところに来ると振り返ってわたしの頬をぎゅっと掴む。いひゃいです。

「笑うと思った」
「ご、ごめん」
「今すぐ連れ帰って泣くまで抱きたいくらいには妬いてる」

また笑おうとすると、頬を掴まれたまま人目もお構い無しに飛雄くんがキスしてくる。

「ちょっ、と...!」
「うるせぇ」
「ま、っ」

絶対に、周りの人飛雄くんのこと気づいてるしめちゃくちゃ気を遣って目を逸らしているしただただ恥ずかしくて消えてなくなりそうだった。

「あんまり可愛いばっか言ってると、知らねぇぞ」
「う...か...、かっ...」
「あ?」
「格好よ、すぎ...る」

羞恥心のあまり飛雄くんの胸におでこを押し付けてぽかぽかと胸を叩くと嬉しそうな声が聞こえる。思わず見上げると、ああ、飛雄くんってわたしのこと好きなんだなってわかる顔をしていて。愛おしくてもうどうにでもなれと背伸びをしてわたしからもキスをした。どうか、話題になりませんように。



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