小説 | ナノ


▼ 花凛様

「あれ?こんなとこに子供がいる〜!」
「この子達あれじゃない?影山の」
「こんにちは!影山飛空です!こっちは妹の飛茉です!」
「...」

飛空と挨拶をした子供はニコニコしたまま2人を見上げ、飛茉と呼ばれた子供は兄の背中に隠れるようにして2人の視線から逃れようとしていた。

「こんにちは。ママは?」
「ママ迷子になっちゃったから、飛空くん達で探してるの!」
「はは、ママが迷子になったんだね」
「古森子供得意なんだ」
「まあね、俺従兄弟とか多かったし」
「すなりんだ!」
「ん?俺のこと知ってるの?」
「うん!ママがお話ししてくれたの!」
「すなりん、しゅごいってママがゆってた」

飛茉が兄の背中から顔をちょこっと出して、角名のことを見上げながらそう呟く。褒められた角名は少し照れ臭そうに「ありがとう」と2人の目線までしゃがんで頭を撫でてやる。

「角名こそ優しいじゃん〜」
「良い子達だからな。顔は影山にそっくりだけど」
「はは、確かに。近くで見ても本当よく似てる」
「お兄ちゃん達パパのこと知ってるの?」
「知ってるよ〜」

古森はそう言いながら、目を細め優しい笑みで2人に話しかける。2人をとりあえず影山のところへ送り届けようとアドラーズの控室を目指して4人で歩み始めた。飛空は歩いている間もよく話す方で、飛茉は口をぎゅっと閉じたまま兄の手をしっかりと握ってはぐれないように歩いていた。4人の共通の話題といえば影山のことで、飛空は自慢のパパの話がたくさんできて満足そうだった。

「古森じゃん。何してんの?」
「佐久早、おチビちゃん達捕獲したから連れてきたんだよ」
「こんにちは!影山飛空です!妹の飛茉です!」
「覚えてるよ。この間会っただろ」

佐久早のなんて事のない発言は飛空を喜ばすには十分だった。普段大人達から子供扱いを散々されている飛空は、佐久早が自分を子供扱いせず普通に接してくれる大人として一方的に好意を抱いておりそんな佐久早に覚えてもらっていたことはとても喜ばしいことだった。飛空はポケットから母親に持たされている除菌シートで自分の手と飛茉の手を拭き佐久早の方へ手を差し出した。

「あくしゅ、ちて!」
「美幼女が喋った...!」
「はい、いいよ」
「ひぃちゃんね、おみくんのこと好きなんだって!」
「ぼーる、くるくるちてる!」
「よく見てるね」
「飛空くんも握手して下さい!」
「はいどうぞ」

子供達が佐久早と握手している姿を古森と角名は驚いた表情で見つめている。子供たちは大はしゃぎで佐久早の周りをぐるぐると取り囲んでいる。

「んで、影山の子供達がなんでお前らと一緒にいんの?」
「ママが迷子になっちゃったんだって」
「そうそう、ママの方が」

角名がニヤ、と笑いながら子供達と佐久早のツーショットを撮影している。飛茉は少し恥ずかしそうに佐久早の足にぎゅ、っとしがみついているが飛空は嬉しそうに「パパの真似!」と腕を組んでえっへんと笑っていた。

「ママどこ行っちゃったのかなあ?」
「ママ...」
「ひぃちゃんどうしたの?」
「...っぐす...ママにあいたい...ママぁ...」

たくさん歩いて眠気も来たのか、急にぐずり出した飛茉に慌てふためく大人たち。角名はスマホで影山の動画を再生しながら「ほら、パパ見ときな」と言うが飛茉はふるふると首を振る。古森が「お兄さんが高い高いしてあげようか?」と提案するも「...や」とまたもや首を振られる。佐久早はどうしたものかと影山に電話をかけているようだが繋がらない。すると飛空が、おもむろに飛茉を抱きしめ頬にキスをする。その風景があまりにも自然で、なおかつ絵になっていた為大人たちは唾を飲み込みその場で立ち尽くしていた。

「にぃにがいるから大丈夫だよ」
「...うんっ」
「もうちょっと頑張れる?」

飛空が飛茉の頭をよしよしと撫でながらそう聞くとこくん、と飛茉の首が縦に振られる。「ひぃちゃんは良い子だね」と飛空はパパがママにするように、優しく頬にキスをして涙を拭ってやり飛茉も飛空の頬にキスを返していた。あまりにも尊い光景に大人たちが押し黙っていると、奥の廊下からパタパタと走る音が聞こえ「飛空!飛茉!」と女性の声が聞こえる。

「こら!勝手にうろうろしちゃダメってお約束したでしょう?!」
「ママぁ〜〜〜!」

飛茉がママ目掛けて一直線に走ろうとするが、足がもつれて転びそうになる。古森が咄嗟に手を出し飛茉のことを抱き抱え、そのまま名前に手渡した。

「2人ともとってもお利口さんでしたよ」
「本当にすいません...!もしかしてずっと見て下さってたんですか?ありがとうございます」

名前は古森、角名、佐久早に順番に頭を下げ申し訳なさそうに何度も謝っていた。

「古森さんも、角名さんも面識ないのにウチの子達がご迷惑をおかけして...!あ、影山の家内です。いつもお世話になっております。佐久早さんもいつもウチの子がすいません...」
「すなりん」
「え?!」
「家でそう呼んでくれてるんですよね?」
「もう、やだ!飛空ですか?すいません...」
「じゃあ俺はこれからこもりんって呼んでもらおうかな」
「すなりんと、こもりんだぁ」
「こら、飛空...!」

名前は寝落ちしそうになってる飛茉を抱えたまま飛空の口を塞ごうとするが間に合わず「ママはバレー大好きだけど、他のチームの試合はパパがヤキモチ妬いちゃうから見れないってゆってた!」とニコニコ笑顔で爆弾を投下され恥ずかしさで肩身が狭い思いでいっぱいになる。

「もう、ほんと、すいません...」

顔を真っ赤にしながら謝る名前を大男達は「可愛いな」と思い、影山が愛妻家であることを身をもって知らされお互いに少し恥ずかしい気持ちだった。飛茉が完全に寝落ちてしまい、抱き直そうとすると後ろから「何してるんすか」と声が聞こえる。

「パパー!!」
「帰ったんじゃなかったのか?」
「試合終わったらまっすぐ帰ろうと思ってたんだけど、関係者の方にちょっと捕まっちゃって」

私服の影山がごく自然に名前から飛茉を受け取り、ついでに荷物も全て受け取っていて角名は「おお...」と謎の声を出してしまう。

「子供達が世話になったみたいで。ありがとうございました」
「いや全然!本当にめちゃくちゃ良い子達で俺らも楽しかったよ!」
「この写真侑達に送っても良い?」
「あ、いいっすよ」

佐久早は我関せずと言った感じでその場を去ろうとするが名前に引き止められて足を止める。

「佐久早選手もありがとうございました」
「いや、俺は...」
「コイツ子供達と握手してにやついてたんで大丈夫ですよ」
「おい!俺はニヤついてなんか」
「ハイハイ。佐久早選手見かけによらず子供好きなんですね〜ってSNSに書いてやるよ」
「やめろ」
「ふふ、仲良いんですね」
「そうなんですよ〜」「そんなことない」

同時に返答され、名前は思わず吹き出してしまう。佐久早は古森を迷惑そうな表情で見た後「ほら、飯行くんだろ。行くぞ」とその場を2人で去って行った。角名も影山と話し終え「侑達と合流して帰るね」と去って行く。影山は飛茉を抱えたまま「ん」と手を差し出し飛空と繋いでいない方の手を取り歩き出す。

「ちょっと、恥ずかしいので...もう少し離れてからじゃダメ、ですか?」
「妬いたんでダメです」

一刀両断され名前は「はい...」と諦めて大人しく手を繋いで帰宅する。その様子をファンの方や他の選手達に見られていたそうで後日選手達に揶揄われるも影山は涼しい顔で「羨ましいなら早く結婚したらいいんじゃないですか?」と答えていたそうだ。
目を覚ました飛茉が「翔ちゃんにあいたかった」とぐすぐす泣き出すのはまた別のお話で。



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