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▼ 匿名様

推しが、結婚した。いやまあ、別に私は推しと結婚したいタイプでも結婚したからってどうとかそういうタイプではないけど。でも、それにしても20歳で結婚は少し早い気がする。学生時代からの付き合いって発表されてるしまあ結婚する約束でもしてたんだろうな、おめでとう。そんな気持ちだったのはどうやら周りでは私だけだったようだ。

ー影山の結婚相手、一般女性じゃなくて元ファンらしい

そんな噂が流れ出したのは結婚報道があってすぐのことだった。私も良く情報収集に使っている掲示板にそんな一石が投じられた。

108 : 20XX ○/15
元ファンってか、あの人じゃん?

109: 20XX ○/15
だれ?

115 : 20XX ○/15
109
新規は黙ってな

118 : 20XX ○/15
新規は知らないと思うけど最古参スペオキの美人がいたんだよ

120 : 20XX ○/15
今調子乗ってるファンも全部その人には勝てないから

125: 20XX ○/15
影山ってファンに手出したってこと?

128 : 20XX ○/15
125
そもそも最初から繋がってたんじゃない?

129 : 20XX ○/15
128
えーそれならちょっと幻滅

掲示板をスクロールしながら、私は1人の女性を思い浮かべる。思い当たるのはみんな同じ人物のようで、あの人とは名前さんと呼ばれていたファンのことを指してるようだった。私も通い始めて何度か姿を見たことがある。いつも影山選手から固定でファンサもらってて羨ましいなと感じたのも確かだ。でも他のファンの先輩たちに「影山を応援していくなら名前さんの存在は無視できないし、名前さんと張り合おうだなんて考えたらだめだよ」と優しく諭してもらったので割とすんなり名前さんありきの影山選手のファンになることになった。

いつ行っても会場にいて、大体同じブロックに座って観戦していてオシャレだし何よりそこらへんの芸能人より美人だ。影山選手が宮城にいる頃からファンだったそうで、認知ももちろんされている。私?されてないですね。影山選手の認知は遅いってファンの間でも有名なので。

一度だけ名前さんの後に並んでサインを貰ったことがあるけど、明らかに対応も本人のテンションも私の時と違って少し切なくなった。それから名前さんに対応してる影山選手を見たくなくてなるべくずらしてサインを貰いに行くようにしていた。タチが悪いのが、名前さんも影山選手も多分素でやってるし本人たちは気づいてない。周りの、同担だけが知ってる。だから正直なところ影山選手と名前さんが繋がってたとか結婚したとか言われても「まあ、そうだろうな」という感想に落ち着いてしまった。前に冗談で「名前さんが牛島の厄介くらいヤバいやつだったらよかったのに〜」と同担同士で話したことがあるけどそれは、本当にそう。名前さんは影山選手の嫌がることは絶対しないし、私達他のファンが不快に思うようなことをSNSに載せたり行動したりしない。だからこそ新規のファンは名前さんの存在に驚いてすぐ降りていく。

「最古参で、スペオキで推しと結婚...?どんだけ前世で徳積んだんだよ...」

事態が急変したのはそれからすぐのことだった。

580 : 20XX ○/20
インタビュー見た?

581 : 20XX ○/20
580
見た ダウト

585 20XX ○/20
影山から惚れ込んだってマ?

586 20XX ○/20
585
まぁあれは惚れてたでしょ

590 20XX ○/20
だから現場来なくなったんだ

593 20XX ○/20
でもプロ彼女でさすがって感じ

597 20XX ○/20
593
わかる なんならちょっと応援したくなったわ

600 20XX ○/20
結婚するまで家デートだけってこと?

603 20XX ○/20
600
らしいよ 普通に凄いわ

605 20XX ○/20
流れ切ってごめんだけど歳の差婚だよね?

606 20XX ○/20
605
多分そう 結構離れてる

608 20XX ○/20
影山年上好きだったんだ

610 20XX ○/20
多分そういうのじゃなくてあの人にベタ惚れなだけ

613 20XX ○/20
610
まあそれはそう

仕事の休憩中に掲示板を覗くとやっぱり、という気持ちといつから?という気持ちで頭はパンクしそうだった。

家に帰宅し、意を決して影山選手のインタビューを見る。

「世間の目、とか俺はそういうのよくわかんないんすけど奥さんはすげぇ気にするんで。もし外とか会場とかで見かけてもそっとしといてもらえると助かります」

この一言で、影山選手がどれだけ名前さんのこと大切に思ってるかが伝わってきて思わず頬に涙が伝った。なんの涙かは自分でもよくわからないし、今自分がどういう感情なのかさっぱりわからない。それでも、なぜか影山選手を推しててよかったなと思ったことだけは確かだった。

そして数年後、私は小さい男の子を連れた妊婦さんに東京オリンピックの会場で声をかけるのだった。



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