影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




飛雄くんのオフに合わせて海外遠征に必要な準備を、と先日まで段取りを進めてたのだけど今日はその予定を全部変更して都内で人気な産婦人科に2人で来ていた。「予約制なのに良く取れたね」と飛雄くんにお礼を言うとどうやら井上さんの助力があったそうで改めて周りの方に助けられてるなと感じる。予約制の院内は待合スペースもほぼ個室のようになっていて、とても有難かった。

検査も全て終えあとは診察結果を待っているだけだった。扉をノックされ「影山様、失礼します」と入ってきた看護師さんと目が合う。

「え、待って」
「え?!」
「あ?」
「影山って、えっ、うそ、名前ちゃん?!」
「嘘...!」

そこに現れたのは一緒にVリーグの追っかけをしていた戦友だった。わたしとほぼ同時に忙しくなるから、と追っかけを辞めた牛島選手のオタク友達の莉緒ちゃんだった。わたしと飛雄くんの顔を何往復も見て、驚きすぎて言葉が出ないようだった。

「色々聞きたいことありすぎるんだけど、とりあえず結婚おめでとう!!!!」

両手をぎゅっと握り莉緒ちゃんが満面の笑みでそう言ってくれ、わたしも笑顔になる。診察室に入ると、先生からエコーを見せられる。

「ご懐妊ですよ。おめでとうございます」

その言葉が胸にスッと入ってきて、自分のお腹に手を当ててみる。じわじわと実感が湧いてきて思わず涙ぐんでしまい飛雄くんが手をぎゅっと握ってくれる。その後は先生の説明が続き、次は4週間後に来ることになった。

飛雄くんと手を繋いで歩いていると、向かいから仲の良さそうな親子3人が歩いてくる。とても幸せそうな親子にわたしも釣られて笑顔になると飛雄くんが繋いでいる手を強く握ってくる。

「ん?」
「いや、その。早く会いてぇなって」
「わたしも。早く会いたい」
「名前も決めねぇと」
「男の子だったら飛雄くんに似てる子がいいなぁ」
「そんなもん女だったら名前さんに似てる方がいい」
「そう?女の子も飛雄くん似だったら美人になりそうだけど」

そんな幸せしかない会話を弾ませながら仲良く帰宅する。

そして今回の遠征はわたしは辞退することにし、久しぶりの一人暮らしに少し寂しく思う。飛雄くんは隙間時間を見つけて連絡をマメに入れてくれてて本当に大事にされてるんだなと改めて感じる。わたしと言えば夏バテかと思っていた不調は完全につわりのスタートだったようで絶不調な日々を送っている。飛雄くんがいてくれてた時はなんとかご飯の用意をして自分も少し食べれるように生活していたのだが、1人になった途端何もする気になれず家で睡魔とつわりに襲われていた。

「こんな、しんどいって、聞いてない」

血の気の引いた顔を洗面台で眺めながら、もう胃の中に何も入ってないのにまだ出そうな気がしてトイレに駆け込んだ。
うう、と唸りながらソファに寝転がっていると莉緒ちゃんから連絡がありつわり中でも食べられそうなものをリストアップしたメモが送られてきた。莉緒ちゃんは携帯を酔っ払って無くしてしまったそうで、わたしと連絡を取るのは諦めていたらしい。莉緒ちゃんらしいなと思いながらも連絡先を交換して後日また会おうと約束をしていた。

そして莉緒ちゃんも病院に勤めてからはかなり多忙だったようで、飛雄くんが結婚したことすら知る暇もなかったそうだ。飛雄くんが今海外にいることは莉緒ちゃんも知っているので頻繁に体調の心配をしてくれわたしは周りに助けられて生きてるなと改めて実感する。

今日も莉緒ちゃんから「やっぱ心配だから今から行くわ」と連絡があり家まで色々持って来てくれてありがたく頂戴する。

「影山くんまだ帰ってこないんだっけ?」
「うん、まだあと3日くらい帰ってこない」
「帰ってきてあっちも疲れてるだろうけど、出来ることは自分でしてもらわなきゃダメだよ〜」
「わかってるんだけどさ、やりたくなっちゃうの」
「え〜」
「飛雄くんが生活する上で必要なこと全部やりたくなっちゃうんだよね...本当はご飯もわたしが作ったものだけで生活してほしい...」
「おっ、も」
「わかってるよ!だから別に飛雄くんに強制はしないし、全然外食も行くけど」
「いや〜〜〜〜〜。昔から名前ちゃんの影山くん愛やばいなぁと思ってたけど、結婚するんだもんなぁ」

結婚式の写真を見ながら感慨深そうに莉緒ちゃんはため息をついていた。

飛雄くんが帰ってくるまであと3日、どうか帰ってきてからは体調がマシになってますように。そんな願いを込めながらお腹を撫でていた。
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