茹だるような暑さ。今年の夏は猛暑になりそうだった。飛雄くんの海外遠征に向けてわたしも初海外!と意気込んでいたのだが、どうにも最近調子が悪い。すぐ体は火照るし、頭痛も酷いし何が1番酷いってずっと眠い。火照るだけで熱はないので風邪ではないかと、飛雄くんには特に何も言ってない。けど最近わたしがいつもよりかなり早く眠そうにしてるので「疲れてるんすか?」と心配そうだった。
「ねえ、あんたそれ...」
「ん?」
今日も食欲がなく職場で冷たいうどんを1/3やっと食べ終えたところで箸を置く。夏バテにしては早すぎるしスポーツ選手の嫁としては軟弱すぎて恥ずかしい。同期に最近の不調の話をすると、スマホの画面を見せてくる。
「妊娠の初期症状じゃない?ほら、ここに書いてる。読んでみ」
「えっ?!」
「最後に来たのいつよ」
そう言われて思い返すと、そういえば、きてない。暑さで蒸れるし嫌だなって毎年思ってたはずなのにそういえば、きてない。
「帰りに薬局寄って調べな」
「まさか、すぎて、その」
「え?もうレスなの?あんなラブラブなくせに?」
「いや、そう言うわけじゃ...ってやめてよ!」
自分のお腹にそっと手を置く。もしかしたら、そう思うと体の子のためにも残りのご飯ちゃんと食べようと箸を進めた。
薬局に寄って、自宅に帰る。カバンの中には検査薬が入っている。どうしよう。心臓が勝手にドキドキ高鳴り、手に汗もかく。喉も乾いてきた。コップの水を一気に飲み干し、いざと腹を括ってトイレへと向かった。検査自体はあっけないもので、終わってからもしばらく放心したまま便座に座っていた。
「ど、どうしよう」
別に子供が出来て困るようなことは一切ないし、実際出来るようなことは今まで何回もしてるわけで。それでもやっぱり、現実になると尻込みしてしまってなかなか結果を見れなかった。飛雄くんが帰ってきてから一緒に見るか。いや、それで違った時に大袈裟に騒いでぬか喜びさせるのも申し訳ないしな。でも、わたしはこの時言葉では説明できない確信があった。きっとお腹の中にはわたしと飛雄くんの新しい生命がいる、ってわかっていた。
「よし!見る、見るよ!」
家の中にはもちろんわたししか居ない。机の上にある伏せられたままの検査薬をいっきにひっくり返す。
現れたのは2本の綺麗な線。何度見ても、線はくっきり出ていてほぼ妊娠は確定したと言える。
「っ、すごい」
こんなにくっきりと現れるものなんだ。え、この後どうしたらいいの?とりあえずスマホに頼ろうと手を伸ばすとタイミングを見計らったように飛雄くんから着信がある。
「もしもし?」
「あ、なんか買って帰るもんあります?もうそろそろいつものスーパー着くんすけど」
もうそんな時間か!と時計を見ると帰宅してから3時間ほどが経っていて、自分の優柔不断さに驚いた。飛雄くんからの電話を受けすぐに冷蔵庫を確認して作り置きがあるからどうにかなるか、と胸を撫で下ろす。
「牛乳残り1本しかないから買ってきてくれたら助かるかな」
「後は?」
「今日はとりあえず大丈夫!ありがとう」
飛雄くんからの電話を終え、急いで準備をする。また明日作り置きいっぱいしとかないと。今日は体調良いけど、体調悪い時にご飯作る余裕なくても飛雄くんにはちゃんと食べてもらいたい。なんとか飛雄くんが帰ってくるまでにはそれなりの食卓にすることが出来てわたしもこの一年でずいぶん成長したなぁと自分を褒めてあげた。
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