影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




今朝も見た飛雄くんの顔だけどテレビ越しに見るとまた雰囲気が違って格好いいな、なんて暢気なことを考えながらテレビを見ていた。 
インタビューがどんどん進み、バレーのことから私生活のことに切り替わる。

「俺がファンだった奥さんに惚れて付き合ってくれって頼み込んだんです」 

「えっ」
「影山サンからだったんですかー!いいな〜!」

飛雄くんの発言に思わず食べ物を喉に詰まらせ、むせながら水を飲む。こんなの、聞いてない。

「まだお若いのに、それは影山選手思い切りましたね。結婚するならこの人だって初めから何か惹かれるものがあったんでしょうか?」
「高校時代から試合も見に来てくれてて、いつも俺のこと応援してくれて。だからこれからは1番近くで俺のことだけ応援して欲しいって思ったんで結婚を申し込みました」
「今まで何の目撃情報もなくいきなりご結婚されたと言うことですが、何か気をつけてらっしゃったんでしょうか?」
「付き合ってる間は外でデートは絶対しないって約束だったんで、結婚してからやっとデートしてもらってます」
「その約束は影山選手から?」
「いや、奥さんから言ってくれました。付き合ってからは試合も気遣ってあんまり見に来なくなったんで色々我慢してもらって申し訳ない気持ちでいっぱいです」
「じゃあご結婚された今、奥様とのデートも試合観戦も解禁ということでしょうか?」
「そう、っすね。ファンの皆様には今まで黙っててすいませんでした。多分すけど、ファンの方の中には俺の奥さん知ってる人もいると思います」

脳内の処理が全く追いつかず、やっとテレビの飛雄くんが何を言っているのか理解した。こんなの聞いてないし、本当に何も知らない。番組はお昼のワイドショーのようで飛雄くんがインタビューされているようだった。

わたし以外の2人も箸を止め食い入るようにテレビを見つめていた。

「世間の目、とか俺はそういうのよくわかんないんすけど奥さんはすげぇ気にするんで。もし外とか会場とかで見かけてもそっとしといてもらえると助かります」
「愛妻家だとお噂には聞いていたのですが、とても奥様のこと愛されてるようでこちらまで幸せになってきました」
「っす」
「それでは本日は男子バレー日本代表、影山飛雄選手でした。ありがとうございました!」

テレビ越しに手を振ってる飛雄くんを見つめながら、飛雄くんの優しさに涙が止まらず心配されわたしは意を決して話し出す。

「わたしの旦那さんね、影山選手なの」

と言って涙を流しながら微笑むと、同期と後輩も釣られ3人で、社員食堂て泣いてしまった。

「なんかさ、結婚したって聞いたけど何も言ってくれないし結婚式も呼んでくれないし、なんなら彼氏いることも知らなかったし」
「ご、ごめん」
「すごい寂しかったんだけど、幸せそうでよかったよ〜〜」

同期はそう言ってわたしの手を握る。2人して泣くのは入社して初めての研修で大失敗をした時以来だねと笑い合う。

「気付いたらパートになってるし、土日はいつ遊び誘ってもほとんど付き合ってくれないし」
「その、土日はいつも試合見に行ってたんだよね...」
「先輩っ!見てください!トレンド1位!」

そう言って後輩が見せてくれたスマホには影山くんのもう既にインタビューの動画が「#影山夫婦を応援したい」というタグと共に拡散されている様子だった。

「な、なにこれすご」
「それだけみんな先輩と影山サンのこと応援してくれてるんですよ!」
「この人の呟きもめちゃくちゃ拡散されてる」

また見せてもらった画面には「影山選手と奥さんこの間偶然会ったけど絶対幸せになってほしい2人だったから私も幸せになったよ〜!!!!!」という飛雄くんのファンの投稿だった。あ、わたしこの人誰かわかる。そう思ってまた涙腺が緩くなる。2人も目がうるうるしているようで、3人でまた泣いてしまった。

仕事が終わり、スマホを見ると飛雄くんから電話が来ていて珍しいなぁと折り返すと不在になる。おかしいな、と思いながら他の社員より先に会社を出るとぐっと腕を引かれて振り返る。

「と、飛雄くん!」
「今日練習早い日だったから迎えにきた」
「ありがとう」

ごく自然に指を絡みとられ、そのまま手を繋いで歩く。「今日何食べたい?」「何でも」なんて毎日お決まりの会話をしながら帰路へ着く。 

もうわたしは飛雄くんの手を振り解くこともないし、何も怖くない。そう思えたのは間違いなく飛雄くんのおかげだった。
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