影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




先日に引き続き気まずい車内で、わたしは思わずため息をついてしまう。

「ごめん、飛雄くんと手繋ぐのが嫌だったわけじゃなくて」
「わかってます」
「...わかってたらそんな不機嫌なオーラ出さないでよ」

小声で思わずそう漏らしてしまい、またやってしまったと自己嫌悪に陥る。

「あ?別に出してねぇだろ」
「出てるよ」
「名前さんこそいつまでこそこそするつもりなんすか」
「そんなの、わかんないよ」
「俺と世間の目どっちが大事なんすか」
「飛雄くんに決まってるよ」
「じゃあ、」
「心では分かってても、できないよ!」

飛雄くんの言葉を遮りつい大きな声を出してしまう。

「さっきの女の子がSNSとかで飛雄くんの奥さんがわたしってこと言っちゃったらどうしようとか。もう不安で仕方ないの」
「俺はどうしたら、いいんすか」
「わかんないから困ってるの」

何かをして欲しい、そんな話じゃなくてただわたしの弱い部分の話であってますます自分のことが嫌になる。

「ごめん。ちょっと自分の気持ちと折り合いつけるからそれまでは飛雄くんと出かけたくない」

家に帰り、飛雄くんの目を見てそう伝えると飛雄くんはとても傷ついた顔をして「わかりました」と一言。飛雄くんを傷つけたかったわけじゃない、むしろその逆なのにどうしてこんなにも上手くいかないんだろう。

その日を境に飛雄くんから外食を誘われることもなく、休みの日に今まで通り家デートをする。特に何事もなく、飛雄くんには申し訳ないけど平和な日々を過ごしていた。

そしてある日、お昼休みに社員食堂で違う部署の後輩社員がスマホを取り出しわたしに話しかけてくる。

「名字先輩、これって先輩ですよね?」

会社では旧姓を使っており、結婚したことを知ってるのも同じ部署の人くらいだ。見せられたスマホには飛雄くんのSNSに上げていた結婚報告の写真だった。思わず息を呑む。

「っ、」
「これ!男子バレーの影山飛雄の奥さん!先輩ですよね?!」

いきなりのことで返事が出来ずに戸惑う。

「このコート先輩のだし、このマフラーもカバンも全部そうじゃないですか!いっつもめちゃくちゃ可愛いしセンスいいって思って見てたんでわかります!結婚したなら教えてくださいよ〜!」
「え、っと、その」
「名字先輩と影山選手めちゃくちゃお似合いだと思います!美男美女だし!」
「あ、ありがとう」

彼女に圧倒され、思わずお礼を言ってしまい自分が肯定してしまったことに気づく。誰にも口止めなんてされてないけど、出来ることならバレたくなかったというのが本音だった。内緒にしてほしい、と口を開こうとする前にテレビから飛雄くんの名前が聞こえてきて一気にそこへ意識が持っていかれる。

「今日は男子バレーボール日本代表、影山飛雄選手にお話を聞いていきたいと思います!」
「よろしくお願いします」

ひとまず後輩を連れて一緒にお昼を食べることにしたが、話の内容はあまり耳に入って来ずテレビに釘付けで食べるのも忘れるほどだった。
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