影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




結局昨日はあのまま子供のように泣き疲れて寝てしまった。朝起きたらいつも通り、そう、昨日のことなんて忘れたかのようにいつも通りに振る舞う。わたしは大人だから、気持ちの切り替えも自分でするし機嫌だって自分で取る。腫れぼったい目はメイクで誤魔化し飛雄くんを笑顔で起こした。

「飛雄くん、おはよ」
「ん、おはよ、す」

おはようのキスをし飛雄くんを起こす。いつも通り飛雄くんを送り出し、今日は出社するのでわたしも飛雄くんより少し遅い時間だが家を出る。

飛雄くんは最近テレビの仕事も増えてきたそうで、飛雄くんがテレビに出る度SNSのトレンドに「影山選手 嫁」「結婚」の文字が並ぶことも増えてきた。見なければ良い、そうは思うけどやっぱり気になって見てしまう。内容は「影山選手のお嫁さんどんな人なんだろう?」「影山選手と結婚出来るなんて羨ましい」といったものが大半を占めていた。

飛雄くんが忙しい時期、というのもあるけどあの日以来外で会うのが億劫になってしまい休みの日は大体2人で家で過ごすようになってしまった。ここ最近飛雄くんは何か言いたそうにしていたが、わたしは気付かないふりをして数週間かが過ぎる。何かあった時にとりあえず逃げてしまうのはわたしの悪い癖だと思いながら、心に蓋をして普段の生活を送っていた。

「名前さん今日外に飯食いに行きますか?」
「いいよ〜!何食べたい?」
「肉!」

外食の時、最近はもっぱら焼肉。軽く身支度をして駐車場へ向かう。車内ではラジオをよく流してるけど、たまに飛雄くんが歌ってくれる鼻歌がわたしは大好きで話をするより2人でラジオを聞いてる時間の方が長い。

「名前さん」
「はぁい」

信号待ちで飛雄くんにキスを強請られ「ダメです」と拒否すると断られると思っていなかったのかとてもショックを受けている様子で申し訳なくなった。でもさすがに車内でキスしてるところを誰かに見られるのは怖いし「ごめんね」と飛雄くんに謝る。今まで外でデートしてた時、そこまで考えることなかったけどどうやって飛雄くんに接してたのかわからなくなる。

食事中も気が滅入っていると、食欲がなくなり飛雄くんが食べている姿を見ているだけでお腹いっぱいになる。

「体調悪いすか?」
「ううん、大丈夫だよ」

それ以上飛雄くんが何も聞いてこなくて正直安心した。

会計を済ませ店内から出ようとすると飛雄くんがファンの女の子に声かけられているところだった。女の子は少しお酒が入ってるようで飛雄くんに握手をした後も腕を組んだりべたべたと体を触っていて正直面白くない。店の出口で足を止めて飛雄くんの様子を伺っていると店員さんが気を利かせて女の子に声かけてくれた。

「お客様、お連れ様がお待ちですよ」
「え〜!影山選手連絡先教えてください!」
「それは無理です」
「めっちゃ塩じゃん!」

女の子は楽しそうにケラケラと笑いながらわたしの横を通り過ぎようとし、立ち止まる。

「オネーさん影山選手の奥さん?」
「えっ、」
「てか影山選手の古参のオネーさんじゃん!まじ?やば」

表情筋が一気に固まり、顔面の血の気が引く。

「お客様、」
「わかったわかった、じゃーね。お幸せに〜」

悪い人ではなさそうなのはわかるけど、わたしは自分が知られていたことに驚いてしばらくその場に立ち尽くしてしまった。飛雄くんが心配そうに声をかけてくれ、駐車場まで歩き出す。

飛雄くんと少し距離を空けながら早足で歩いていると飛雄くんがわたしと手を繋ごうと伸ばしてくる。繋がれそうになった手をわたしは咄嗟に引いてしまい気まずい空気になる。

(やって、しまった)
- 66 -


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -