影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




その日初めて、飛雄くんがいるのに飛雄くんとご飯を食べることはなかった。飛雄くんが走りに行ってる間に食事を作り自分の分は食べて、飛雄くんの分だけ置いておく。飛雄くんが食事を食べてる間にお風呂に入って先にベッドへ入ってしまった。大人気ない、のはわかってる。でもどんな顔をして飛雄くんと話していいかわからずただただ避けてしまった。またわたしは飛雄くんのあのまっすぐな目で正論を言われたら言い返せる自信がない。

せっかくの貴重な休みを無駄にしてしまったことと、飛雄くんに申し訳ない気持ちと、それから自分自身が嫌で寝室で声を殺して泣いてしまった。こういう時、寝室を別にしていればよかったと思うけどさすがに飛雄くんをソファで寝かすのはあり得ないので飛雄くんがお風呂上がったら寝室から出てわたしがソファで寝よう。そう思っていると、寝室のドアを開ける音が聞こえ全身が緊張で硬直する。

ベッドが軋む音が聞こえ、さらに体が強張る。飛雄くんの溜息が近くで聞こえ、押し殺していた泣き声が思わず漏れてしまう。飛雄くんは後ろからわたしの体を抱きしめて、よしよしと頭を撫でてくる。その行為に緊張が一気に解れてしまい我慢していた声も出てしまう。

「1人で泣くの禁止にすんぞ」
「、っ」
「俺の前でしか泣くなよ」
「だ、って」
「こうやって抱きしめれねーだろ」
「ごめん、なさいっ」
「俺も、悪ぃ」
「ううん、わたしがっ、悪いっ」

飛雄くんに抱きしめられたまま泣きじゃくるわたしは本当に情けなくて、余計に涙が出てくる。飛雄くんはよしよし、と頭をずっと撫で続けてくれている。

「何が、1番嫌すか?」
「え?」
「俺は、名前さんがこそこそしなきゃなんねぇのが1番嫌だ」
「うん、っ」
「別に誰にも迷惑かけてねぇし、なんなら好きになったのは俺だから俺の方が悪ぃ。それなのに名前さんが試合も見に来なくなって外でもファンがいたら隠れるって、何で名前さんばっか我慢しなきゃなんねぇんだよ」
「と、びおく」
「俺は名前さんのこと守れなくて自分がダセェ」
「そんなことない」
「ある」
「ないの。わたし、自信ないの」

やっと、言えた。ずっと、本当はずっと思ってたこと。

「わたしが、飛雄くんの隣にいていい人間なのか自信がないから嫌だったの」

飛雄くんからの返事はない。

「もちろん飛雄くんがわたしのこと好きだ、愛してるってそういうのは全然疑ってない。ただ、2人きりじゃない時、世間の目とかそういうのが気になって怖くて仕方ないの」
「世間の、目」
「影山選手、見る目ないよね。影山選手ならもっと良い人と結婚できたんじゃない?影山選手、早くに結婚して失敗だったよねそう言われるのが、怖い」
「誰に言われたんすか」
「誰にも、言われてないよ。でもいつかそう言われちゃったら飛雄くんに申し訳なくてわたしは自分のこと許せないと思う」
「じゃあ俺が許しますよ」

飛雄くんはこうやっていつもわたしが思いもよらないことを言ってわたしのことを導いてくれてる。それでも臆病なわたしはまだ一歩踏み出せずにいて、今日はこのまま飛雄くんの暖かさに包まれて何も考えずに眠ってしまおうと目を閉じた。
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