影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




飛雄くんと結婚生活をスタートしてから変わったことも特になく、日々幸せな生活を送っていた。飛雄くんもわたしも私生活で感情の起伏が激しい方ではないので大きな喧嘩もなく仲良く暮らしている。

休みの日には2人で出かけたり、出かけた先で飛雄くんが声をかけられる事も増えてきたと思う。今日も久しぶりのお休みで初めての少し遠出デートへ。飛雄くんとのデートといえば今まで家の中でしかしてこなかったのでどこに行っても新鮮に感じる。そして今日はアウトレットに来ている。

「次これ着て、そのあとこれね」
「まだ着るんすか」
「今日は今年の夏服いっぱい買うからね」
「俺何でもいいっすよ」
「だめ!せっかく格好いいし、スタイルいいからわたしが着て欲しい」

飛雄くんと言えば私服は無頓着な方で、夏場はいつもよくわからない(悪口じゃありません)Tシャツで過ごしていたのでいつも勿体無いとファン時代は思っていた。飛雄くんを着せ替え人形のように試着室に押し込み店員さんとあれこれ試着してもらいやっと決まった。

「あ〜楽しかった!」
「もう名前さんと買い物はこねぇ...」
「ごめんね?でももうサイズ大体わかったから今度から1人で来るよ」
「それもだめっす」
「だめなの?」
「名前さんぼけっとしてるから危ねぇ」
「そんなことないよ!しっかりしてるよ!」

そう言ったそばから足を踏み外しそうになり飛雄くんに支えてもらう。「ほら」と言わんばかりの飛雄くんの視線が痛く、思わず目を逸らした。

「名前さんはなんも買わないんすか」
「飛雄くんの買ったら満足しちゃった」
「じゃあ俺が選ぶ」

ええ、それはちょっととは言えずぐいぐいレディースコーナーにつき進む飛雄くんに着いていくのが精一杯だった。

「飛雄くんはどんな服装の人が好き?」
「別にねぇ」
「なんかあるじゃん。ほら、ミニスカートがいいとかパンツスタイルがいいとか。あ、ミニスカートはもう恥ずかしいからやめてね」
「名前さんの足知らねぇやつに見せるわけねーだろ」
「いや、そういう問題でもないんだけど」
「これとか、着たら、似合うと思う」

少し恥ずかしそうに飛雄くんが差し出してきたのは夏に合いそうな真っ白なAラインのワンピースで少し驚く。

「飛雄くんのことだからロゴ入りのTシャツ勧めてくるかと思った」
「名前さんにはああ言うのは似合わねぇだろ」
「へ〜!飛雄くん、こういうの好きなんだ!参考にしよっと」
「これが好きなんじゃなくて、名前さんが着たら、その、なんかこう。いいんじゃねぇかって」
「試着してもいい?」

今日も旦那さんが可愛くて、ぐっと背伸びをして頭を撫でくりまわしたいのを必死で我慢し試着室に入る。サイズもぴったりで少し可愛過ぎる気がしなくもないが、飛雄くんがせっかく選んでくれたんだしと試着室を出ると飛雄くんがファンの女の子に話しかけられているところだった。そして、わたしはその女の子を見たことある気がして思わず試着室に隠れる。

「いつも応援してます!」
「応援ありがとうございます」
「奥様とデートですか?」
「ああ、はい」
「素敵ですね〜!」

声だけ辛うじて聞こえる空間で、わたしはスマホを取り出し飛雄くんに電話をかける。飛雄くんとは電話のルールがあり、それが染み付いてるはずなので電話口でわたしの名前を出さないはず、と信じて。

「はい」
「もしもし?その子多分わたしのこと見たらわかるから、会計済ませて別の出口から出るね。駐車場で合流しよ」
「、わかりました」

飛雄くんはそのあとファンの子とは問題なく別れることができたそうで、思いの外早く合流できた。戻ってきた飛雄くんは不機嫌そうで、どう機嫌を直してもらおうか脳内で考えるがその前に飛雄くんから切り出してくる。

「俺ら別に悪いことしてねぇよな?」
「そ、そうなんだけど...」
「名前さんと俺が一緒にいるのってそんな悪いことっすか?」
「悪くは、ないんだけど。でもやっぱり知っちゃったらファンの中には飛雄くんのことよく思わない子もいると思うよ...わたしはファンに手出したとか変な噂になるの嫌だもん」
「応援してくれてても、よく知らねぇやつにどうこう言われるより名前さんと堂々と歩けない方が嫌です」
「それは、そう、なんだけど」
「何のために結婚したんすか」
「少なくともデートするためだけではないよ」
「俺は!それもちゃんとした理由っすよ」

そこから帰り道は地獄だった。飛雄くんは一言も話さず、わたしも生きた心地がしないまま運転して家に着く。家に帰るや否や飛雄くんは「走ってくる」と一言残して出て行った。

飛雄君の言いたいことはわかる、わかるんだけどわたしは怖い。飛雄君とわたしが釣り合ってないことなんてわざわざ他人に言われなくてもわかってるし、放っておいてほしい。たまたまわたしが昔から飛雄くんのこと知ってたから飛雄くんも興味を持ってくれて付き合えたのだって、わかってる。世間が言うほど出来た嫁じゃないし、出会ったのも美談なんかじゃない。

飛雄くんの世間体を気にしてるフリをしてわたしは自分のことを守るので精一杯だった。これが飛雄くんと同い年くらいの若い子だったら何も考えずに飛雄くんのこと話せるのかな。わたしはまだ学生時代の友人にも結婚相手が男子バレーボール日本代表影山飛雄だと言うことを打ち明けられずにいた。
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