影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




人間とは本当に怖いもので、あんなにも驚いていた影山くんの奇行にわたしは徐々に慣れつつあった。
アップのタイミングでわたしを見つけ軽く会釈をし、試合中どこかのタイミングでサービスエース宣言のポージングをする。

思い返してもわたしはまだ自分の妄想だと思ってるし、現に毎回影山くんから「見えてました?気づきました?」とまるで褒め待ちのわんこのようにソワソワ聞かれてしまったら信じる他なかった。会釈のタイミングでわたしが照れたように笑うと影山くんはいつも満足そうにしていて、正直言ってめちゃくちゃ可愛い。ここにきて格好いい以外の褒め言葉を影山くんに使うことがくるだなんて思いもしてなかった。

「このままずっと、ずーっと影山くんのプレーを追っかける人生を送りたいなあ」
「えー、わたしは若利くんと結婚したい」
「でた!」

わたしの友人は所謂リアコ、ガチ恋勢であり牛島選手と本気で付き合いたい結婚したい、そうだ。
まあ牛島選手は割とどのファンの子にも丁寧で優しくて、そういった女の子のファン層が多いのもわかる。
一方影山くんは、本人は頑張っているつもりでも語彙力が少なく会話が続かないことも多い。
たまにこちらが驚くようなリップサービスを言ってくるときもあるが、基本的にはわたしのようなプレーに惚れてるタイプのファン層が多いようだった。

試合前に友人と歓談していると、前から若い制服姿の女の子たちの笑い声と話し声が聞こえる。

「飛雄くん狙いで行くわ。顔、よくね?」
「顔で選ぶのやめな〜?」
「しかも高校出てすぐなんでしょ?絶対ちょっと誘ったらいけるじゃん」

ギャハハと下品な笑い声が聞こえ、わたしは思わず眉をグッと顰める。隣の友人も流石に気付いたのか「まあまあ」とわたしの肩を叩く。
いや、影山くんに彼女がいるとか結婚するとかそういうのは全然問題ないんだけど影山くんの品位を落とすような行動とか発言をする人間に影山くんの時間を割いてほしくない。まあ、わたしのわがままでしかないんですけど。

周りのファン達も彼女の発言を不快に思ったのか一瞬不穏な空気になったが、選手達が入場しそれどころではなくなった。

前の女子高校生達は大盛り上がりで選手の名前を呼び、影山くんが見えると「飛雄〜〜〜〜!」と大きく手をブンブン振り回してアピールを続けていた。

影山くんはどこ吹く風という感じでアップを開始しようと、わたし達が座ってるブロック前を通過しようとする。が、一旦止まりこちらを振り向きいつも通り会釈をする。
友人が肘でぐりぐり押してきて、「今日もアツイね〜〜」なんて茶化してくると前方から叫び声が聞こえる。

「やばくない?!飛雄!こっち見たんだけど!」
「何もう付き合ってんの?」
「飛雄絶対好きじゃん!」

そんな会話も聞こえてるのか聞こえてないのか、最近の影山くんはわたしが何かしら反応するまで絶対に目を離してくれないのでぺこりと軽く会釈をすると満足したように微笑んでアップを始めた。

「わたしはさ、わかってるからね」
「ん?」
「名前ちゃんがどんだけ影山選手に大事にされてるか」
「ふふ、ありがと」

影山くんの姿を見た瞬間から先程までのどす黒い嫌悪の感情はどこかえ消え去っていた。
今日も素敵な試合になりますように。



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