影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




わたしは目線を手元に落としたまま、怖くて目の前が見れなかった。飛雄くんはみんなの反応が無く、不思議に思ったのかわたしに話しかけてくる。お願いだから一瞬、一瞬でいいから黙ってて欲しい。気まずくて胃が痛い。 

「名前さん、まだ言ってなかったすか?」
「う、うん。タイミング逃しちゃって...」
「はぁ?!おま、今日話したいことってそれだったのかよ!早く言えよ!」

烏養さんから怒声が飛んでくる。肩身が狭い。

「だ、だって!飛雄くんとはとりあえず烏養さんに話そうねって決めてたんで...」
「あー、俺らが乱入しちゃったからかぁ。ごめんね名前さん」
「ま、まだ飛雄くんのご両親にご挨拶行っただけなので、その...」
「ウン、大丈夫!オフレコ!おっけー!」

影山よかったなー!と明るく話してくれる菅原くんと澤村くんは「ア、アザラシ...」と眉間を抑えていた。

「じゃあ改めて、影山と名前さんの結婚祝いと影山の成人を祝って!乾杯!」
「乾杯!」

みんなのグラスがかちゃんとぶつかる音がし、声が重なる。飛雄くんに「同窓会は?」と小声で尋ねると「抜けてきた」と一言。

「菅原さんから、名前さんと呑んでるって聞いて。つーか携帯見ろよな」
「えっ?!あー!ごめん...鞄に仕舞い込んでた...」
「心配すんだろ」
「ご、ごめんね。ありがとう」
「すげぇラブラブじゃん!お前〜!俺にあんだけ相談の電話してきてたんだから付き合ったならちゃんと言えよ〜!」

菅原くんがニコニコしながら飛雄くんに指を刺して、「この!野郎!」と言うと横から澤村くんが「指を指さない」と手を抑えていた。その様子が面白くて吹き出してしまう。

「名前さんが、誰にも言うなって」
「え、じゃあお前まじで誰にも言ってないの?」
「ハイ。あ、チームの人にはバレましたけど」
「え!?そうなの?!」
「東京の人はどういうとこでデートすんの?」
「デートしたことないっす」
「ん?!」
「名前さんが外では絶対会ってくれないんで」
「プロだ...」

澤村くんと菅原くんがわたしの方を見て、そう呟く。

「俺とは外で飯食ってくんねぇのにコーチと先輩らずりぃっす」

飛雄くんが少し拗ねたようにそう呟くと、菅原くんから「影山妬いてんの?」と野次が飛ぶ。

「妬いてますよ!なんで俺より先に外で菅原さんと澤村さんが名前さんと飯食うんすか!」
「と、飛雄くん酔ってる?落ち着いて...」
「酔ってません。酔ってんのは名前さんの方だろ。顔赤ぇ」
「え?顔赤いかな?」

頬に手を当てると、飛雄くんの大きい手が空いている頬に添えられ「ほら、熱い」と言われ更に顔に熱が集まる。

「顔赤ぇ、っすよ」
「い、今のは飛雄くんが悪くない...?」
「影山、俺らいるの忘れてない?」

飛雄くんの突飛な行動にドキドキさせられっぱなしだった。烏養さんへ改めてお礼を伝えると照れながら「先越されちまったなぁ」と笑ってそう言ってくれた。

「影山!お前名前ちゃんのこと絶対幸せんすんだぞ!こんな良い子まじでどこ探してもいねぇからな」
「うっす」
「烏養さん!買い被りすぎです」
「ファン辞めろって言われてわんわん泣いてた名前ちゃんがなぁ。影山と結婚かぁ」
「何すかその話!!」

菅原くんが身を乗り出して話を掘り下げる。わたしとしては勘違いだったとはいえ人生で最大のショックと言っても過言ではなかったあの日のことを思い出して胃が痛くなる。

夕方から始まったプチ同窓会もお開きとなり、わたしと飛雄くんは新幹線で東京に帰宅。烏養さんのだけのはずが澤村くんと菅原くんも駅までお見送りをしてくれ、飛雄くんが菅原くんに抱きしめられ頭をぐしゃぐしゃに撫でられていた。
普段スキンシップを先輩としている姿をあまり見ないため、飛雄くんがされるがままで可愛くてにこにこしてしまう。

「また試合見にいくからな!」
「たまにはこっちも帰ってこいよ」
「影山、名前ちゃん、幸せにな」

「ありがとうございました」と2人で頭を下げ新幹線のホームまで向かう。ホームまで歩いていると飛雄くんに右手を握られ驚いて飛雄くんの方を見る。

「もうダメとは言わせねぇ」
「、うん」

手を繋ぐ以上に恥ずかしいことなんてたくさんしてきたのに、外で手を繋ぐのがこんなに恥ずかしくて嬉しくて幸せなことって気づかなかった。
大きい飛雄くんの手をわたしも力を入れて握り返すと嬉しそうに飛雄くんが笑顔を見せてくれて寒い中わたしの心はぽかぽかに暖かくなった。
- 54 -


×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -