影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




「おめでとうございます!終盤まさかツーで行くと思わなくて大興奮でした!影山選手のフォームが美しすぎてもう本当に最高でした...今日も素敵な試合ありがとうございます!あ、今日はこれにお願いします」

だいたいいつも影山くんと話す時はわたしが一方的に試合のかっこよかったところ、興奮したところをガツガツ話してしまう。影山くんは「アザス」とか「っス」とか言葉自体は少ないけど最近は表情がだいぶ柔らかくなってきて、わたしとしてはとても嬉しい。

いつも通り色紙とサインペンを差し出すと、サインを終えた後一瞬動きが止まる。
どうしたのだろう?と影山くんを見上げると目が合い「うっ」と女子らしくない恥ずかしい声を思わず漏らしてしまった。顔が、よすぎないか?

「名前、なんて言うんすか」
「あっ、名字ですよ〜」

正直言ってめちゃくちゃショックだった。
あれ?こないだ普通に書いてたよね?まあでもそのショックを悟られないように明るく返事をする。心は泣きそうだった。

目の前の影山くんはぐっと眉を顰めて、ペンを止めたままもう一度口を開ける。

「いや、下の名前っス。名字サンの名字は忘れてません」

影山くんはエスパーですか?心の中を読まれたようで羞恥心でかっと顔が赤くなる。思わず頬を抑えながら「名前です」と消え入りそうな声でぼそっと呟いた。
影山くんはその瞬間顰めてた眉の皺が取れ、にやりと笑いながら「名前サン...名前、サン...」と二、三度満足そうに呟きひらがなでわたしの名前を色紙に書き落とした。うん、今日も絶好調に字が汚い。こういうの見るとまだ若いなあ、って思ってしまう。

いつもならサインを書き終え、ぺこっと会釈をして離れるところだが今日の影山くんはまだ話し足りなさそうでわたしの名前を呼ぶ。慣れないからやめてほしい。恥ずかしさで消えて無くなりそうだった。

「名前サン目ぇ悪いっすか?」
「いや!全然悪くないです」
「じゃあなんで今日アップん時俺のことシカトしたんすか、サーブの時も、」

脳内を鈍器で殴られたような衝撃が走る。影山くんよ、お願いなので人畜無害なただのファンの情緒をこれ以上弄ぶのをやめて頂きたい。
突然のことにわたしは目を見開き影山くんの話を必死に遮りながら「あっ、わたしそろそろなんで、ハイ」と意味不明な挨拶をしてその場から逃げるように帰った。

わたしは影山くんのことは見ていたいけど、影山くんから見られるっていうのはちょっと想定外だったので自分のキャパを超えてしまった。

いやそもそも本当にそういう気持ちがないなら影山くんに話しかけるのは間違ってる。でも、せっかく高校生じゃなくなった影山くんに直接プレーの感想を、しかも合法的に伝えれるなら伝えたい。でも毎回影山くんの記憶からわたしのことは消し去ってはじめましてで話をしたい。自分がめちゃくちゃに面倒くさいオタクでいることは理解してるし、それに振り回されてる影山くんには申し訳ないけれどわたしには影山くんのファンサービスが過剰すぎて処理できなかった。

(だって、そんなことするなんて聞いてないしそんな影山くん知らない)

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