影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




これだけマメに試合に通っていると、なんとなく顔見知りが増え、なんとなくいつもこの人いるなーとか。いつもこの人ここで見てるなー、とか。お互い話し出すまでに時間はかかるけど、実際趣味が同じなので話出してから仲良くなるまでに時間はかからなかった。

今日も本名も年齢も、仕事すらわからない友人たちと和気藹々と話し、試合開始を今か今かとみんなで心待ちにしていた。

ファン同士で交流があるとあの人のファンはああだこうだと話題になることもあり、実際わたしのこともずっと噂されてたそうで。全く心当たりはないんですけどね。



「どう考えても名前ちゃんは、影山選手のオキニじゃないですか」
「...それは影山選手に聞いてみないとわかんないよ」
「じゃあ今日試合終わったら聞いてみてくださいよ〜」
「いやだよ!そんなのどこからどう見ても痛いオタクじゃん」



ただでさえプロ前から追っかけてて痛いのに、これ以上影山くんに引かれてしまったらわたしはもう生きていけない。間違いなく、生きて、いけない。
いつか「俺のファン辞めてください」なんて言われた日には、人間としての生活が終わってしまう。
だからわたしは慎ましく、目立たず、ひっそりと今日も影山くんの応援をするのだった。

だけど、それを影山くんは許してくれない。

会場に続々と選手が入場し、そこには影山くんの姿もある。今日も生きてる影山くんはかっこいいなあと大人とは思えない語彙力で脳内が満たされていく。
影山くんはキョロキョロと何度か周りを見渡し、わたしたちの座っている方向へ体を向けたと思ったら「バチ」と目が合った。気がする。気のせいであれ。
隣に座っている友人は自分の推しに夢中でどうやら気づいていないらしく、わたしは興奮やら羞恥心やらで心臓の音しか聞こえない。こんなにも賑やかな会場にいるのに今ここにはわたしと影山くんしかいないような気がした。

影山くんは知り合いを見つけたかのような反応でわたしに会釈をする。いや、わたしじゃないかもしれない。迂闊に動けない。わたしが瞬きもできずに微動だにせずいると影山くんは少し不思議そうな顔をしてアップを始めた。

そしてそのまま試合開始、影山くんのサーブだ。
この瞬間は何度見てもよく自分の心臓が止まらないなと自分のことを褒めている。わたしの死因は影山くんがかっこよすぎるせいであってほしい、と思えるほどいつもかっこいい。
サーブを打つ前、影山くんはまたわたしの座っているブロックに体を向けボールを持ったまま指を指す。その瞬間湧き上がる観客に会場のボルテージも最高潮だった。

ードンッ

と会場にサービスエースの音が響き、一瞬の静寂、からの大興奮。わたしも隣の友人と手を取り合って大はしゃぎをする。

それにしても影山くんのファンサービスが手厚すぎてわたしは吐きそうだった。友人に思わず「かっこよすぎて吐きそう」と溢すと「トイレ行ってきな、今牛島選手から目離せない」と返される。 

試合はアドラーズが終始優勢だった。
試合終了のホイッスルが鳴り、わたしは現実に引き戻される。

今日も今日とて影山くんがかっこいいのは当たり前の事実だけど、それにしても、この間話したばかりでまたこんなにファンサービスしてもらえるなんて夢のようだった。
いや、でもわたしにだけってわけじゃないだろうし自惚れちゃダメだ。

緩んでいた頬をキュッと締め、わたしはカバンの中から新品の色紙とマッキーを取り出し今日も1番に影山選手のサイン列に向かう。

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