影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




「初めまして、いつも影山選手のプレー見て元気もらってます。」


随分と長いこと彼のプレーを見てきたけど、この気持ちを伝えるのは初めてだったし目を見て話すことも初めてだった。
彼のプレーを見ているときは常に胸が高鳴っているけれど、今はそれ以上に胸がいっぱいで、頭がクラクラして、立っているのがやっとだった。
真剣な表情でわたしを見ている彼との沈黙に耐えきれず思わず話しかけようと言葉を発するとぶつかり合ってしまった。その結果聞き返すことになってしまったのだが、今思えばこの時、聞こえない方が良かったのかもしれない。差し出した色紙を落とさなかったわたしを褒めて頂きたい。



「え、あの」
「いや、だから初めまして、じゃないっすよね」
「えっ」



彼は表情ひとつ変えることなくそう言い放った。

…いやまあ、実際初めましてでは全くないのだが彼に話しかけたことはもちろんない。ただ、ずっと、ずっと彼のバレーを見守ってきただけだった。

少し昔話をしましょうか。
わたしが就活で行き詰まっていた時、たまたまテレビで見かけた春高バレーで彼の存在を知った。今までバレーなんて体育の授業でしか関わったこともないし、プロの試合も見たことがなかった。
それなのに彼のプレーを一目見た瞬間から試合が終わるその瞬間まで、わたしは息をすることも忘れモニターを食い入るように見つめていた。

たかが部活、ただの高校生、そんな言葉で片付けることが出来ない胸の高鳴りを抑えることができないままわたしは春高2日目。なぜか会場に足を運んでいた。

テレビでは感じることのできない異様な空気に酔いそうだったけれど、右も左もルールもわからないなりに会場の人混みをかき分けわたしはコートに立つ彼を見つけた。

そう、これがわたしと影山飛雄選手との出会いだった。

影山くんからパワーをもらった後、就活もとんとん拍子で上手くいき無事就職することができた。
就職後も烏野高校の公式戦と休みが会えばまるで隣町かのような感覚で宮城に通っていた。
声をかけるタイミングがなかったと言えば嘘になるけど、今はまだ彼はただの高校生だということを心に刻んでいたし何より影山くんのプレーを見るだけで幸せだった。

最後まで春高で優勝する姿を見ることは出来なかったが、見るたびに進化していく影山くんのプレーを見れることが生き甲斐で全てだった。
大学はどこに進学するんだろう、関東だといいなあと思っていた時にVリーグに進むと聞き心から喜んだのがまるで昨日のようだった。そして、今日わたしは影山くんにやっと声をかけることができた。
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