影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




烏養さんの車に乗り込み、市内の方に向かう。練習が終わったのは結構いい時間でお腹もだいぶ空いてきた。あんなにも落ち込んでたのに空腹を感じる自分に少し軽蔑しながらも車内での烏養さんとのトークを楽しんでいた。

「へぇ、そんじゃ別にバレー経験者とかじゃねーんだ」
「そうなんです!たまたまテレビで4年前の烏野の春高初日かな?を見て」
「おー、あれな」
「見て、好きになっちゃいました」

何を?バレーを。誰を?影山くんを。何度も何度も友達家族に話した内容で間違いはない。ただ、何故か喉の奥に引っかかるような何かを感じる。
これは多分影山くんに「ファンを辞めろ」と言われる少し前から感じていた違和感。

昼間の様に急に泣き出さないわたしの様子に安心したのか、ぽつり、ぽつりと烏養さんは影山くんを中心に話を広げてくれた。

「日向は今ブラジル行っててな」
「ブラ、ジルですか?!スカウトか何か?」
「いや、ビーチバレーしに行ってる」
「お〜さすが日向くん、って感じですね!」

日向くんと言えば影山くんの相方、相棒、そんなイメージでいつも試合を見ていた。
試合中ほとんどの時間を影山くんを見ているけど、気付いたら日向くんに目を奪われてることも多く素人目から見ても日向くんのプレーは凄かった。

着いたぞ、と車を停め烏養さんとご飯屋さんに入る。
烏養さんは運転なので飲めないが、遠慮するなとしきりに勧めてくださるので「一杯だけ...」と生ビールを頼む。

もちろん飲み始めたら一杯で止まるわけもなく、気付けば仙台銘柄の日本酒まで手を出していた。昨日も散々飲んだから今日は飲みすぎるとまずいかもしれない。そんなことを考える余裕はあったが、烏養さんの一言で余裕も吹き飛ぶ。

「で、名前ちゃんは影山とどういう関係?」
「え」
「言っとくけど、ただのファンと選手とかそう言う返事は求めてねぇからな」

(いや、ただのファンと選手なんですけど...)

関係、は本当に何もない。ただの、ファンと選手。でもただのファンなのに影山くんになんでファンを辞めろって言われなきゃいけなかったんだろう。目の前にあったお猪口を一気に飲み干し、烏養さんの目を見る。

「ファンを、辞めろって、言われました」
「で、辞めんの?」
「影山くんの嫌なことは、したくないんですけど。でも、辞めれない。辞めたくない。だって好きなんだもん〜〜〜〜〜〜」

いい歳した女が恥ずかしいこと言ってるのはわかってるんですけど、酔っ払いってことで多めに見てもらってもいいですかね?
机に突っ伏しながら「やだやだやだ」と駄々をこねてるわたしを烏養さんはただ笑って見ている。

「わたし、今まで何かに夢中になったことって本当になくて。こんなに夢中になれるのって影山くんが最初で最後なんだと思うんです。それなのに最後が早すぎる。むり。わたし影山くんのばれーみれなくなったらしんじゃう。せかいでぇ、いちばん、すきなんれす」

もはや呂律がまわってなくても関係ない。わたしはもう今さら烏養さんにどんな醜態を晒しても恥ずかしくない。開き直ってまたピーピー泣き出した。向かいに座っていた烏養さんがおしぼりを放り投げてくれ、そのおしぼりにどんどん涙を吸わせていく。わたしべつによってない。でも、涙が止まらない。

「って言ってっけど?影山はどーなの?」

烏養さんの言葉を酔っ払いの頭では処理するのに大幅に時間がかかり、壊れた人形の様に烏養さんの目線の先、つまりわたしの真後ろをゆっくり振り返る。

そこには顔を真っ赤にして、「、名前さん」と口元を手の甲で押さえて立っている影山くんがいた。

(あっ、かわいい)

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