影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




「落ち着いたか?」
「しゅ、醜態をすいません」
「名前ちゃんにはほんと、感謝してもしきれねぇくらいいつもよくしてもらってっからな。それくらい気にすんな」
「烏養さんの優しさが滲みます」

うう、と買ったばかりのお茶を飲みペコリと頭を下げる。烏養さんはどこかに電話をかけているようで、わたしは思わず店内を見渡す。烏野高校時代の影山くんはきっとここを何度も訪れて、何度もチームメイトと同じ時を過ごしたんだろうな。そう思うと剥がれかかっているポスターすら愛おしく感じて感極まってしまう。
戻ってきた烏養さんはわたしがキラキラした目で店内を見渡していることに気付いたようで、少し笑いながら「アイツは肉まん、よく食ってたよ」と教えてくれる。

「えっ、影山くん肉まん食べるんですか?可愛すぎません?肉まんになりたい」
「名前ちゃん喋ったら残念って言われんだろ」

あはは、と愛想笑いを返すと烏養さんは徐に立ち上がり「じゃ、行くか」とわたしの荷物を持って店を出る。
どこに行くんですか?そう聞かなくてもわかった。でも実際目の前にすると感動が抑えきれず烏肌が立つ。ここが、影山くんの、

「これが、烏野高校」
「来んのはじめてだっけ?」
「っはい」
「アイツらもこんな綺麗なおねーさん遊びにきたらきっと喜ぶよ」

おーす!と体育館の中に入っていく烏養さんの後ろをこそこそと着いていく。体育館の中に入ると一斉に視線を浴びることになり思わず萎縮してしまう。 

「誰?」「コーチの彼女?」「美人だべ」

一斉にざわつく体育館。烏養さんは主将だけ呼び出しわたしの前に連れてきてくれた。

「いつも差し入れ送ってきてくれてる名字さんだ。お前代表でお礼言っとけ」
「アザーーーーーーッス!!!!」
「こ、こちらこそいつも烏野高校の皆さんのプレーに元気とかもらってます!インハイも頑張ってください!」

そういうとあらゆる方向から「アザーーーーーーッス」と声が聞こえ思わず驚いた。肩をビクッと揺らすと烏養さんが横から笑ってくる。試合でおっきい声聞いてるのと自分に向けられるのは訳が違うと思います。

その後は烏養さんのご好意で練習風景を見学させてもらえることになった。邪魔にならないように上から見ていると、試合とはまた違った面白さがあり時間を忘れて食い入るように見ていた。
途中武田先生もわざわざご挨拶に来て下さり、久しぶりに再開することができた。

影山くんが烏野にいた時から、何度も何度も烏養さんも武田先生もわたしのことを選手たちに伝えようとしてくれていたがわたしがそれをずっと断り続けていた。わたしにとって影山くんはどう考えても神様みたいな存在で。
プロでもないただの高校生に厚かましくファンです、と挨拶しに行けるほどの勇気も度胸もなかった。高校生からしたらわたしなんてただの年上の変なお姉さんでしかないし、影山くんにストーカーみたいで気持ち悪いって思われたら嫌だった。

(けど結局嫌われちゃったんだよなあ)

昨日から突如くるこの不安定な情緒にもはや少し慣れつつあった。人間ってすごい。
プロになったから、わたし以外にもたくさんファンいたし、ちょっとくらいファン名乗っても引かれないよね?気持ち悪くないよね?って調子に乗って話しかけたのがそもそも間違いだったのかな。
しかも結局影山くんは烏野時代からわたしの存在気づいてたみたいだし。というか、原因それでは?高校生の時からたまに試合で見かけた変な奴がプロになって目の前に現れたらそら気持ち悪いか!だれか時間戻す方法発明してくれないかな。

練習も終わり特に見るものもなく超絶ネガティブモードに入ってしまい、気分はもうドン底だった。せっかく大好きな烏野高校の練習見学出来たのに。鬱々していると、ふと下にいる烏養さんに手招きされ立ち上がって階段を降りる。

「名前ちゃん明日も休みつってたよな?」
「はい!」
「飯、行かね?」

もちろん!喜んで!と返事をし烏養さんと体育館を出る。

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