「おはようございます!影山です!」
(ですよね〜〜〜〜!!!)
昨日と同じタイミングの来客に薄々勘づいてはいたが、やはり影山くんだった。まだ緊張で少し吐きそうだが、昨日より落ち着いてマンションの下に降りることができた。
昨日と同じくジャージ姿の影山くんに朝から思わずときめいてしまい、マンションの物陰に隠れてしまいそうだった。今朝も顔がとても良い。
「名前さん!」
と、嬉しそうに小走りで向かってくる影山くんが可愛すぎて思わず胸を押さえる。「捨ててって言われてたんすけど」と影山くんは恐る恐る紙袋を差し出してきた。そうだよね、影山くん人からもらったもの勝手に捨てたり出来なさそうだよね。こればっかりはわたしが悪かった。ごめんね、影山くん。
「おはようございます、タッパーわざわざありがとうございます!」
「こちらこそご馳走様でした。すっげぇ美味かったデス!!!」
「本当?お口にあったようで嬉しいです」
影山くんの率直な感想が嬉しいのと可愛いのとで、思わず満面の笑みで返事をしてしまう。誰が作ってもそこまで変わらないだろうカレーをこんなに美味しかったと表現してくれる影山くん天才では?彼氏にしたいバレー選手ナンバーワンなのでは?
「あの、また、食べたいっす」
「あ、ハイ。機会があれば是非」
影山くんはきっと社交辞令とか苦手なタイプだろうし、本当にそう思ってくれてるんだろうなあとわかりながらもわたしは狡い大人なので曖昧な返事をしてしまう。
もちろんこうやって影山くんと話せるのは嬉しいし、手料理を褒めてもらうのは嬉しい、嬉しいけどどこかで良くないことをしてしまってるのではないか。他のファンの方たちにバレてしまったら。影山くんによくない噂が立ってしまったらどうしよう。そんな気持ちで、罪悪感で胸が押し潰されそうだった。
「いつならいいっすか?俺次のオフは来週の火曜なんですけど、平日は名前さん普通に仕事っすよね?」
(何も通じなかった、どうしよう)
影山くんが素直すぎて、自分がものすごく汚い大人に見えてきた。それにしても影山くんは手料理と言うものに飢えてるんですか?作ってくれる人きっといっぱいいるんじゃないですか?そんなことを聞けるわけもなく「はい、仕事です」とだけ返事をする。
「何時に帰ってきますか?」
「だいたい18時くらいにはいつも」
と言いながら、わたしはまんまと影山くんのペースに乗せられてしまっていることに気付くがもう遅い。火曜の18時には家にいることがバレてしまった。いやそもそも推しに質問されて答えないって選択肢ありますか?わたしにはなかったです。
「じゃ、火曜の19時で」
ん?何が?19時?家に来るってこと?それとも昨日みたいに渡せばいいってこと?さすがに影山くん言葉が少なすぎて困ります!とも言えずににこにことご満悦そうな影山くんに何と声をかけるか迷う。
「家は、ダメですよ」
「いつならいいんすか?」
「いつとかじゃなくて、普通に!だめです!」
「彼氏ですか?」
「いませんけど!とにかく、だめ!です!」
しゅん、とさっきまで尻尾を振り回していた影山くんの尻尾は完全に垂れ下がっており、わたしは謎の罪悪感で胸が張り裂けそうになる。いっそのこと張り裂けた方がマシかもしれない。そもそも影山くんの異性に対する距離感がわからなさすぎてわたしはもしかしたら影山くんの従姉妹?姉?もしかして身内だった?という気持ちになってきた。
影山くんは「じゃあ、次も名前さんのカレー食いてぇ。デス」と遠慮気味にリクエストしてきたので、「喜んで」と思わず笑顔で返事をしてしまった。ずるい。だって、そんなの、顔がずるい。
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