影山選手の追っかけはじめました。 | ナノ




腕を掴まれたままその場で突っ立ってるのも可笑しな絵面だなと思い、影山くんに腕を離してもらうように伝える。

「すんません。痛かったすよね」
「いや!ぜんぜん!大丈夫です!」
「つか、ありがとうございました。助けてもらって」
「いや!こちらこそ守って頂いてありがとうございました」

ガバッと頭を下げると影山くんはびっくりしたのか、苦笑いをしながら「あ、頭上げてください」とたじろいでいた。

「そろそろ大丈夫だと思うんで、帰りますね!」
「心配なんで送ります。名前さん最寄りどこすか?」
「いやいやいやいや」

影山くんのビックリ発言にわたしは一歩後ろに下がりながら顔の前で手を激しく動かした。影山くんはわたしが離れた一歩を埋めるように一歩近づき、もう一度同じ台詞を吐いた。一言一句違わずに。

「えっ、あ、その」
「じゃあとりあえず名前さんが電車乗るまで見届けます」
「あー、それなら?いいの?かな?」

わたしは正常な思考判断が出来なくなっていた。いやどう考えてもダメだろう。と、今なら言える。
影山くんに促され隣に並んで駅まで歩くことになった。

(隣に?並んで?歩く?ちょっと待て。やっぱダメだろ)

さすがに隣に並ぶのは図々しいと思い、少しだけ歩幅を狭くし影山くんの斜め後ろを歩けるように調整する。が、気付いたらまた影山くんの真横に並んでいた。

「すんません、歩くの早いっすよね」

ビクッ!と肩が揺れる。影山くんはわたしの思考を読んでますか?「大丈夫です」と返事をし、お互い無言のまま駅へと向かった。

いつもはわたしが一方的に話していることが多いのでこんなに無言の時間を過ごしたことはなかった。
ただ、不思議と無言の時間は苦痛ではなく心地の良いものだった。

駅構内へと入り、「じゃあわたし3番乗り場なので、ここで」と伝えると「一緒っす」と影山くんが言ってのける。

「え?一緒、ですか?」
「なんで、送ります」
「でも!もうあの子達も見当たらないですし」
「まあ、そうっすけど。同じ方向で別の電車乗るのも変っす」
「わたし後から乗るんで!影山選手先乗ってください!」

さすがに影山くんの最寄駅を知ってしまうのはまずくないだろうか?そう思いどうにかここで別れられないか言ってみるのの、影山くんは最初からこうなることがわかっていたかのようで。止まっていた電車にわたしの背中を軽く押しながら乗り込んだ。影山くんに背中を触られてしまった、!もう背中洗えない!洗うけど。

不幸中の幸いだが電車の中は人がほとんどおらず、誰も影山くんには気付いてないようだった。
影山くんは扉に背をもたれ、腕を組みながら難しい顔をしていた。やっぱり迷惑だったのか、と謝罪の言葉を口にしようとすると先に声をかけられる。

「今日まだ聞いてない、っすケド」

何を、と聞き返すまでもなかった。思わずにやけてしまいそうな顔を口の中を噛みぐっと堪える。電車の中なのでいつもより少し小さめの声で話すと聞こえづらかったのか少し姿勢を低くして、首を傾けてくる。「その角度、顔が良すぎるのでやめた方がいいです。死人が出ますよ」と思わず言いかけたがさすがにバカっぽいので我慢した。

結果いつも通りわたしが一方的に話すことは変わらず、最寄駅に電車が到着する。「ありがとうございました、お疲れ様でした」と電車を降りようとすると本日何度目かわからないビックリ事件が勃発してしまった。

「俺もここなんで」

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