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 食事を終わらせた勘右衛門は長屋に帰り、ハチと兵助は委員の活動があるからと走って行った。


「ねぇ三郎、僕らはこのまま井戸端に行く?」

「いや、湯浴みでいいよ」

「でも、怪我にしみるんじゃ…」

「汗臭い方が私は許せない」

 三郎の美学は“飄々かつ楽しんだ生活”らしいので、自分の体臭が眉をしかめる匂いではいただけないのだろう。こだわりが強い辺りB型というかお洒落というか…三郎が痛みをこらえるのはイヤなんだけどなぁ


「怪我に泡がかからないように、僕が洗ってあげようか?」

「は…」

「ほら、小さい頃お風呂でよく背中流しっことか洗いっことかするじゃない、あんな感じで」

 指を立て提案すれば、みるみる耳が真っ赤になる三郎。


「よくやったり、しなかった?」

「雷蔵は、したの…?」

「うん、ハチや先輩たちと」


 まばたきもせずに僕を凝視する三郎は4年の時に編入してきた。4年の初めのテスト結果で一番上に見知らぬ生徒の名前を見た時はハチとビックリしたっけ。
 今でもちゃんと覚えてる。



(てことは、僕、今ひどいこと聞いたかも…っ)

 4年で編入して首席を取るくらいだ。それまでの生活が忍に通ずるものがあったに違いない。そうなると、背中流しっこなんていう子供じみたことをやってきたかという質問は、酷だ。
 心なしか震えている三郎は、やはりプライドが傷ついたのかもしれない。


「ご、ごめん…っ、やっぱりこの歳になると恥ずかしいよね」

 笑って失態を誤魔化したが、三郎は笑わず、何も返してくれなかった。
 これは本格的に悲しませたかもと笑うのをやめ、また謝ろうとすれば、そっぽを向いた三郎が真っ赤な耳を見せてボソボソと何かを言った。




───君が…どうしてもやりたいと言うなら、付き合わないでもない




「ふふ、ありがとう三郎」

 なんで聞こえるんだ!と言いたげな顔でこちらを見る三郎。
 まったく、いつも頭の回転は速いのにね。




「僕は図書委員だからさ」


 固まる三郎が照れてるって気がしたから、なんだかとても面白くて、僕は笑いながら彼の手を引いていた。






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