ミッション その5


 確かに現実は彼が思っているほど甘くなかった。
 未成年のうえに、これといった保護者もいない身では仕事を見つけることはできない。また瞬はもちろん知らなかったのだが、ありとあらゆる場所に実はグラード財団の息がかかっていたのである。
 城戸邸を出る時に持ってでたわずかばかりの金は、もう底をつきはじめていた。食事も最近はろくにとっていない。野宿をした日も何日かあった。しかし、彼は戻ろうとは思わなかった。瞬は今初めて運命に逆らっていたのである。
 不思議なことに瞬のもつ独自の美しさはそんな生活の中でさえ、いささかも損なわれてはいなかった。
 瞬は少年の頃、よく遊んだ場所に来ていた。
 兄が拳法の練習をしていた大木はすでにないが、少なくとも思い出だけは残っていた。
「今日はここで寝よう」
 明日はもう、この町をでなければいけないと瞬は思っていた。いつまでも思い出に浸っているわけにはいかない。また新しい場所で道が開けるかもしれないのだ。
 瞬は夜空を見上げた。
‘僕達はもっと早くこうするべきだったのかもしれないね、兄さん’
 憎悪と復讐心に凝り固まっていたかつての一輝さえ結局はグラード財団という見えない鎖から解き放たれることはなかったのだ。
‘貧しくてもいいから兄さんと平凡な暮らしがしたかったな’
 その時瞬は人の気配を感じ、はっと後ろを振り返った。





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