〜序章〜
天頂に近い位置からギリシャを照らす太陽の下、傷の癒えた俺達五人は沙織と共に聖域を訪れていた。
前回の殴り込みじみた時とは違い、今回はアテナと、アテナを守護する聖闘士としての正式な訪問だ。
あの戦い以降、六人が揃って聖域に姿を見せるのは初めてだった。
俺達はアテナと最も親交のある者として、そして神話の時代より難攻不落の十二宮を突破した異例の青銅聖闘士として、どうも特別視されているらしい。
否応なしに周囲から注がれる視線が…邪魔くさい。
十二宮最初の白羊宮で修復された聖衣を受け取り、アテナ神殿へ向かって階段を登り始めた。
星矢達から少し離れた最後尾を、俺はゆっくり歩く。
激戦によって崩壊した宮は、既にかなり復元されていた。
鍛練も兼ねているのか、白銀や青銅、雑兵共はそれぞれ素手で作業の仕上げに当たり、アルデバランに至っては巨大な柱を楽々運んでいる。
現場監督らしきアイオリアが黄金聖衣を纏った姿で指示を出す様は、さながら時代を超えた工事現場の風景だ。
「ご苦労様です。こうして皆で力を合わせているのですから、すぐにでも十二宮の補修は完了すると私は信じています」
…つまり、すぐにでも補修を完了させろという事か。厳しい激励だ。
それにしても、さっきから雑兵がコソコソと鬱陶しい。
アテナへの注視や会釈ならばまだしも、明らかに瞬の姿を追う視線の数々が、後ろを行く俺にはよく見える。
花に群がる害虫を追い払うが如く威嚇小宇宙を放つと、奴等はすぐさま退き作業に戻る。が、またすぐに別の方向から似た連中が湧いて出るので面倒臭い。
「チッ…」
終始不機嫌な小宇宙を放つ俺を瞬が何度も振り向くのは、突然消えやしないか不安なのだろう。
『ちゃんといるから安心しろ』
目で言うと、瞬は柔らかな安堵を浮かべて小さく頷き、再び前を向いて歩く。
太陽の反射を受けて輝く若草色の髪が、女神の横で軽やかに揺れる。
神話の姫君のレリーフが刻まれた聖衣ボックスを眺めながら、終始無言で付いていく。
時折害虫駆除をしながら。
程なくして、教皇の間へ辿り着いた。
こことアテナ神殿は、真っ先に補修を終えたらしい。
教皇の間の担当らしきベテラン雑兵が一人、直立して隅に控えている他は誰もいない。
「では、貴方達にはここで暫く待機していてもらいます。一人で勝手に行動してはなりませんよ」
最後の一言は俺に向けて言ったのだろう。
群れるのは性に合わん。
聖域での脅威など皆無に等しい今、俺達に言い渡されたアテナの護衛という役目は、単なる名目上に過ぎない。
沙織の真の目的は、聖域にいる聖闘士や雑兵どもと交流を深め、結束力とやらを高めるものだろう。
ウンザリだ。ここまで行動を共にしただけでよしとしてくれ。
祈りの儀式とやらに入るため、この先のアテナ神殿へは沙織だけが進んだ。
出入り口付近にいた俺は、そっと周囲を窺う。
星矢と氷河は奥にある教皇の玉座の辺りに、紫龍は中央付近に立っている。
最も近くにいるのは…瞬か。
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一人でずらかる。 →
瞬を連れてずらかる。