至高の感触
「兄さ…あ…やぁ…んっ!」
「フッ、敏感だな。もう少し我慢出来ないのか?」
「も…っ、ダメ…!」
悩ましげに体をよじる瞬の肩を押さえ、一輝がその胸元にそっと手を這わせた。
「イチャつくのは結構だが、人目も憚らず朝から外でとは…大胆だな」
紫龍が呆れたようにテラスへ出てきた。
「なっ!? イチャついてなどおらん!」
一輝は反論するも、庭先で芝生の上に瞬を押し倒した格好のままでは説得力に欠ける。
「兄さんとストレッチをしてたんだけど…、途中からツボ押しをしてもらってたら…」
「位置は合ってる筈だが、すぐにくすぐったがって、どうもうまくいかん」
「ツボなら多少心得がある。手本を見せるから、見ておくといい」
肩で息を切らしている瞬を見兼ねた紫龍が、袖を捲り上げて庭へ降りてきた。
「あ…あれ? くすぐったく、ない」
「何が違うんだ?」
「恐らく力を入れて押さなかったのが原因だろう。指圧する様に、肘から指先に適度な力を入れると程良い刺激になる。聖闘士同士なら小宇宙を込めてやると更に効果があるぞ。ほら瞬、どうだ?」
「あ…、きもち…いい…。ん……」
途切れ途切れに呟く瞬の悩ましげな声に、一輝のこめかみがピクリと動いた。
「…替われ。充分わかった」
「コツは指先だけでなく、肩から肘を通して力を入れるんだ」
「ああ。続きは俺の部屋でやる。瞬、来い」
「は…はい、兄さん。紫龍、どうもありがとう。気持ち良かったよ」
不機嫌そうになった一輝と無邪気に微笑む瞬を見送り、紫龍はやれやれと溜め息をついた。
「瞬のツボだけでなく、一輝の独占欲まで刺激してしまったらしいな」
◆◇◆◇◆◇◆
「瞬。他の奴の前でああいう声を出すな」
「ああいう、って?」
「無自覚か……ったく」
一輝の部屋へ言われるがままついてきた瞬が、不思議そうに聞き返した。
「こういう事だ」
「わっ!」
細い腕を引っ張ると、いとも簡単に瞬はベッドの上に倒れこんだ。
すかさず一輝もベッドへ乗り上げ、瞬の両腕を押さえこむ。
だが、それでも瞬は兄を見上げたまま、澄んだ翡翠色の瞳をパチパチしている。
「お前は警戒心が無さ過ぎる」
「どうして? 兄さんを警戒する理由なんて、ありませんよ」
そう言ってふわりと優しく微笑う瞬を見ては、一輝にはどうしようもない。
「兄さん?」
嘆息し、押さえていた白い腕から手を離す。
「もういい…。ツボ押しの続きだったな」
「うん。終わったら、次は僕が兄さんのツボを押すね」
先程は瞬に強い刺激を与えてしまぬよう、あまり力を入れなかったのがいけなかったらしい。
探るように、慎重に力の加減を調整しながら、華奢で温かい愛弟の体を押していく。
「どうだ?」
「…ん…。すごく…、気持ちいい…よ…」
「そうか…」
安堵し、あちこち触りながら、一輝は無意識のうちに瞬の体を包み込むように抱き締めていた。
「兄さん?」
甘い花のように清廉な芳香を、胸いっぱいに吸い込む。
「もう終わり?」
よく知った甘く優しい瞬の香り。
「ふふっ。兄さんって温かい。何だか幸せな気分…」
なぜ、こんなにも惹かれるのだろう。
「ならば暫くこうしててやる」
クスクスと笑う温かな腕の中へ小宇宙を送り、しばらくの間二人は互いの体温と小宇宙を感じ合っていた──。
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