雨の混戦
【ヒョウガ視点】
50km程の軽いジョギングをしていた氷河は、雲行きを気にしていつもより早めに城戸へ戻るルートを走っていた。
「降りそうだな」
帰路を急ごうと速度をあげようとした時、邪悪な未知の小宇宙を感じ取った。
「!!」
小宇宙の出所は城戸邸。
邪悪な小宇宙の近くでは、紫龍の小宇宙が極限にまで高まっている。
何か起きたらしい。
「敵か!」
常人では視界にすら入らない速度で駆け出す。
今、城戸邸には紫龍と瞬がいる筈だが、瞬の小宇宙が燃焼していないのが気に掛かる。
応戦しているのが紫龍だけならば、瞬は…?
まさか瞬の身に何かあったというのか?
やがてポツリポツリと空から落ちてきた雫が、一つ、また一つと氷河の顔を湿らす。
あれこれ思案しながら城戸邸の敷地内に足を踏み入れたと同時に、瞬の鋭い悲鳴と何かが弾き折れる音が聞こえた。
「瞬!!」
いつもと違い、ひどく僅かで不安定な瞬の気配に焦燥感を覚える。
空から落ちる水滴はみるみる増してゆき、あっという間に強雨へ変わっていった。
邪悪な小宇宙が瞬に近づいたのを感じ、氷河は光速に近い速度で中庭へ飛び込んだ。
「瞬!! 大丈夫か、瞬! こ、これは一体…!?」
中庭は数十の黒い布がうごめいており、尋常でない光景だった。
よく見るとただの布ではなく、全身を黒いローブに包んだ人影だ。
明らかに招かねざる客人を警戒し、凍気を纏い身構える。
強い雨の中、無惨にも真っ二つに裂けた大木の側に、瞬はいた。
雨に濡れた髪が頬に張り付き、真っ青な顔で座り込んでいる。
瞬の横で膝をつき、荒い息で身構える紫龍がこちらに気付いた。
「まともに受けたら危なかったな…。氷河、そっちから来る奴を頼む!」
「ああ!」
「うわわ! コイツら一体何なんだ!?」
後方から駆けつけた星矢の姿を視界の端に捉えながら、氷河は黒いローブを纏った者達に凍気の拳を繰り出す。
「ダイヤモンド…ダスト―!!」
降り注ぐ雨が氷河の小宇宙に触れ、みるみる氷の粒と化す。
「蹴散らせばいいんだな? ペガサス流星拳――!!」
無数の光がほとばしり、星矢も手当たり次第に正体不明の者達を吹き飛ばすが、次々に現れる敵にギョッとした声をあげた。
「一体何人いるんだ!?」
「奴等の狙いは…瞬か?」
紫龍と瞬の周りは特に敵が多く寄り付いており、十数体が雨を含んだ水龍の拳によって空高く吹き飛んだところだった。
蒼白になって動けずにいる瞬を背後に庇いながら、紫龍は油断無く周囲に注意を払っている。
技を受けた黒い人影は消えるが、やがてまたすぐにどこからともなく集まり出す。
「ちくしょう! これじゃキリがないぜ!」
無数の光の拳を放ちながら、星矢は紫龍達に向かっていた塊を蹴散らした。
「紫龍、瞬を連れて逃げろ!」
氷河は叫びながら、瞬達に向かおうとした数体を逆方向へと蹴り飛ばす。
戦いに加わらず、いつもと様子の違う瞬とこのただ事ではない状態は、関係があるのだろうか。
「どけっ! ペガサス流星拳――!!」
二人の逃げ道を作ろうと、星矢が広範囲に光速拳を撃った。
流星拳に当たらなかった数体を、氷河は雨で濡れた立地を利用して足ごと地面に凍りつかせる。
「紫龍、持ってけ!」
星矢が投げた小さく光る何かを受け取り、紫龍は意味を理解して頷いた。
「ああ、借りるぞ! 事情は後で説明する!」
動けないでいた瞬の手を引いて紫龍が駆け出す。
二人の後を追おうとする黒い人影に凍結拳を放ちながら、氷河は叫んだ。
「紫龍! 瞬を頼んだぞ!」
「黒ずくめのストーカーどもめ! 俺達がやっつけてやる! かかってこい!!」
暴れ出した星矢と共に、氷河も氷の結晶を無数に散らしながら、何発もの凍結拳を繰り出す。
降りしきる雨の中、氷河と星矢は際限無く現れる影の軍団を相手に攻防を続けた。
友の身を案じながら…。
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