ある朝の国士無荘に響く足音は二階の奥で止まる。
「環ーっ!!いつまで寝てるんだよ!起きろ!今日一緒に出かけるって言ったのお前だろ!?」
一萬の部屋を開け放ったのは、向かいのファウスト。
「んー……」
環は、布団に深く入り込むだけで起きる様子は皆無。
「環、起きろっ!」
近寄って揺すっても、
「……」
無反応。こうなると環はなかなか起きない。
知らず知らずファウストから溜め息が零れる。
「………ったく…、今すぐ起きないとキスしないからな…」
半分冗談のつもりで言った言葉だった。しかし予想を外れ、環は勢い良く起き上がる。
思いのほか、それは効果があったようだ。
「……起き、る」
ボーっとしている環にファウストはまた溜め息が零れる。
「…最初から素直に起きろよ…全く」
その場から離れようと立ち上がり踏み出すと、
「…ファウ、」
「んー…」
振り返ろうとしたら腕を引かれバランスが崩れる、瞬間の出来事。
「……っ!」
環との距離はほぼゼロ。
「……はよ、」
…キス、されたんだと理解した時には、してやったり顔の環が見えた。
「…〜ッ!は、早く準備しろよっ!」
顔が熱い。耳まで、ドクドク…と、心音が騒ぐ。
「……、わかった」
環はそう言うと、ファウストをその場に、あっさり離れ身支度を始める。
「………はぁ」
深呼吸に溜め息が混ざる。
…まだ、騒いでうるさい心音に心が落ち着かなかった。