十匹目

言葉は分かるってことは
文字も読めるのか?

フィンクスは女を椅子に座らせるなり
そう聞いた。


文字は読めないわ。

シャルナークが貸してくれた本は
何一つ読めなかったの。

私の世界と、文字はまるで違うのね。
暗号みたいでびっくりしたわ!


女は得意げにそう言う。


フィンクスは私に紙とペンをよこせ、と指示し
女の隣に座った。

コルトピも女の隣に座り、フェイタンはランプを持って部屋の隅に座った。


私が手渡した紙を広げて、フィンクスは始めるぞ、と言うが

女が手を上げてそれを制する。

その前に、ちょっと待って。


あなたたち、本当に私を仲間として認めるの?


フェイタンの隣に腰をおろした私は、驚いて女を見つめた。


証拠を見せて!
でないと私、出て行くわ!


フィンクスは助けを求めるように
フェイタンと私に顔を向ける。

その顔があまりにアホヅラだったので
私は笑いそうになるのを堪えた。


仲間だと認める言てるね。

ささと始めるよ。


フェイタンは本から視線を逸らさないまま
女に向けて言葉を放つ。


じゃあ


女は立ち上がって、フェイタンに向き直った。


じゃあフェイタンがいい!


あまりに唐突な言葉に
地下牢は静まりかえった。

フェイタンはゆっくりと女を見上げる。

それか静かに、分かった
と頷いた。

コルトピはフェイタンと女を交互に見つめて
最後に私を見た。
コルトピと目があった瞬間、本当に笑いそうになったが
フェイが横目で私を睨んだので、なんとか収めた。



それじゃあ、フェイタンに教わるわ。

他の人は必要ない。

これからずっとフェイタンの横にいることにする。


フィンクスはフェイタンの様子を伺うように
黙って見ていたが
フェイは本を閉じて立ち上がった。


決まりね。
ささと始めるよ。


フィンクスはフェイのために席を空けて
代わりに私の隣に腰を下ろす。

私はドンマイ、とばかりにフィンクスの肩を叩いた。



それからフェイと女の話し声をBGMに
私はフェイの読んでいた本を読み
フィンクスは携帯でゲームを始め
コルトピは退屈そうに空を眺めていた。



たまに女が笑い、フェイも珍しく笑い声を上げて
見た目には和やかに時間は過ぎていった。





今日はこれで終わりね。



フェイは立ち上がって
取っていたマスクを耳にかけた。

私とフィンクスも立ち上がる。
時間を見ると、既に5時間が経過していた。


私達は地下牢を出て、広場に向かったが
女はフェイに腕を絡ませ、上機嫌で鼻歌を歌うので
それに苛立ってフェイの背後から中指を突き立てた。

広場に出ると、既に陽は暮れ始めていて
シャルとマチが広場の真ん中で寝息を立てていた。


フェイ、今日はどうする?

私が話しかけると
女が前に進み出た。


あなた、一体フェイタンのなんなの?
いつも一緒にいるようだけど
あなたも蜘蛛なの?


私は呆れて笑ったが
女は私を睨んだまま視線を逸らさない。


私が蜘蛛だったらなんだっていうのよ?


どうしていつもフェイタンと一緒にいるのよ?
あなたはこの人のなんなの?




私はなんだかバカバカしくなって
お好きに、と言って背を向ける。


それにフィンクスとコルトピもついてきて
私達は連れ立って外に出た。


ま、面倒なことをフェイが引き受けてくれたと思えば
儲けもんじゃねえか。

コルトピもうんうん、と頷く。


心配すんなって。
お前のお守りは俺が引き受けたから。


フィンクスは私の肩に手を置いたが
敢えてそれを振り払わなかった。


え?

フィンクスたち、そう言う感じなの?


私達が何度否定しても、コルトピはしつこく聞いてくるので
それに関してはコルトピを無視した。


3人で夕食を摂って本拠地に戻ると
広場にいるのはマチだけで


裁縫を中断してこちらを見たマチの顔は
とても疲れた様子だった。




あんたたち、まんまと楽なポジションについたようだね。

フィンクスは缶ビールを啜りながら
マチの隣に腰を下ろした。


バカ言うなよ。

俺たちが決めたわけじゃないぜ。

フィンクスはまた一口飲み、ゴクリと喉を鳴らした。

それに、お前らだって
フェイが引き受けんだ、随分楽になったはずだろ。



マチは針をしまいながら、フィンクスを睨んだ。

バカ言ってんのはアンタだろ。

私達はこれから、並行世界について調べなきゃなんないんだ。
休んでる暇なんてないんだよ。


まだ言ってやがんのかよ。


フィンクスはそう吐き捨てると
缶ビールを片手で潰した。


アンタら、シャルの言ったことまさか忘れたわけじゃないよね?

監視は最低、3人だよ。


マチは立ち上がってもう寝るわ、と踵を返した。

去り際にあの2人は地下牢にいるよ、それじゃ、頑張ってと残したせいで
私達3人は小競り合いになったが
ジャン負けでフィンクスとコルトピが担当することになった。



一人になった私は
広場に寝転び、天井を見ながら遥か遠い1ヶ月後のことを想った。






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