話をしたい、というシャルナークから連絡があったのは
20時すぎだった。
本拠地で話すのはまずいから
家に来るというので、
どうする?とフェイタンに確認すると
意外にも承諾した。
シャルは21時が半分過ぎたくらいに呼び鈴を鳴らし
玄関の前に疲れた様子で現れた。
昼間は悪かったよ。
リビングに入るなり、シャルはフェイタンに向けてそう言った。
フェイはソファに座りながら
黙ってシャルを見つめている。
とにかく、話を聞いてほしいんだ。
シャルはソファの前に腰を下ろした。
私もフェイの隣に座り、足を組む。
俺は、あの女を捕らえた時に
アイツと話したんだ。
シャルの話をまとめると、こうだ。
あの女の話していることには
一貫して信憑性がある。
念能力に瞬間移動を可能にするような能力が
仮に存在したとしても
あの女には念が使えない。
念の使い手は身の危険を感じた時、反射的に
ガードしてしまうものだか
レイラのそれは全くの素人、念を知らないものと考えていい。
もし黒幕が念能力で送り込んだ刺客だとしても
念が使えないような小娘、
噛ませ犬にもならない。
それにあの女は
自分たちが流星街出身だということも言い当てた。
結成の日に団長が言った言葉も
一語一句違わなかった。
俺たちの誰かが漏らした可能性もあるが
パクは団員の中に裏切り者は居ないと言っていた。
全員を調べたからだ。
これらを総合すると
並行世界が現実に存在する可能性が高い。
その並行世界に確証が得られない上に
女の目的が分からない以上
行動を細かく観察するしか方法がない。
私達はシャルが話し終わった後
しばらく黙り込んでいった。
オマエは考えが甘いね。
フェイタンはパーカーの裾をまくった。
服の下に隠れていた筋肉が顕になる。
パクがユダではない確証がどこにあるか?
ワタシ達は既に憶測や推測で混乱しているが
それこそが敵の思うツボでないのか?
私もそれに頷いた。
俺も、それは可能性としてあると思ってる。
だからこうして相談に来てるんだ。
仮にパクがユダだとすると
現状、俺たちに嘘を暴くスキルはない。
だから、空いている旅団員は
全員であの女を監視してほしいんだ。
フェイタンは持っていた本をパタリと閉じた。
なら今殺るね。
それが一番手取り早いよ。
シャルは勢いよく手を床についた。
フェイ、これはリスクとリターンの話なんだよ。
俺たちは、あの女というリスクを負いながら
並行世界というリターンを得たいんだ。
シャルは少し怒ったような口調で続ける。
もし、並行世界が本当だったらどうだ?
このチャンスを簡単に見過ごせるか?
私はフェイタンを横目で見たが
フェイは何やら考えているような顔つきで空を見つめるに留めた。
団長だって、そのリターンを望んでいるはずだ。
だから俺たちに指示を出した。
俺たちは全員で協力すべきなんだ。
救急車のサイレンが遠くで響く。
時計の針は、すでにシャルの来訪から1時間が経ったことを告げていた。
いいね。
明日から本拠地に行くよ。
私はシャルもユダではないか、と勘ぐったが
最悪、私の能力を使えば分かることだったし
フェイタンも恐らくそれを分かった上での判断だろう、と思い黙っておいた。
その夜は満月だった。
足早に去っていくシャルを、8階のベランダから見下ろしていたときに気付く。
やるなら、今日よ。
フェイタンは私の背後でそう呟いた。