六匹目

何度かコルトピとフィンクスから連絡が来ていたが
どうしても本拠地に向かう気にはなれなかった。

団長命令が下されてから3日経っていたが
私は特に何もしていなかったし
それは多分、コルトピもフィンクスも同じだったと思う。


ウヴォーギンとノブナガは、1週間は別の仕事があるようで
任せる、と言い残してから連絡が途絶えていた。


あの日、フェイタンは明け方に帰ってきた。


案の定帰ってすぐにシャワーを浴びに行ったので、自分の洗濯物を先に洗っておいて良かった、と胸を撫で下ろした。

返り血でびっしょり濡れた服は
2度洗い直さないと臭いが消えないのだ。


この3日間、本拠地に行きたくなかったのは
フェイタンも同じなようで
明日本拠地に集合、というフィンクスからの伝言を伝えても、返事は返ってこなかった。


その夜は、アヒージョを作って食べた。

この前ノブナガと飯に行ってから
白ワインにハマっている。

珍しくフェイタンも飲みたいと言い出したので
グラスを2つ出した。



商品価値を高めるには
各方面の知識を仕込む必要があるよ。


フェイタンは面倒臭そうに呟く。


1ヶ月では付け焼き刃の知識しか身に付かないね。
値段に期待はできないよ。


それには私も同意見だった。

大した値段にもならない仕事に
労力を費やしているのには
他でもない、シャル達の主張する並行世界に
団長が感心を持っているからに過ぎないのだ。


私は煙草に火をつけて、煙を吐き出した。


団長命令だからね。



私の言葉に、フェイタンは顔を顰めた。



翌日、
本拠地に到着したのは午後14時だった。


フィンクスは13時を指定していたので
1時間も遅刻したことになる。

それだけ、私もフェイタンも憂鬱だったし
何より抗議の意味合いが強かった。

出掛けに車には乗ったものの
エンジンをかけない私にフェイタンは何も言わなかったし
そのまま1時間、車内で無駄に時間を過ごしてしまった。



本拠地に到着すると、例の女が入り口から顔を覗かせた。


フェイタン!


紫のケープを羽織った
その女は、一目散にフェイタンに駆け寄る。


フェイタン、待ってたのよ!

さあ、中でみんな待ってるわ。

行きましょう。


手を引こうとする女に
フェイタンは素早く身を引いた。


触るな。


尚も女はフェイタンに歩み寄る。

仲良くしましょうよ、フェイタン。
シャルが教えてくれたの。
ちゃんと修行すれば、蜘蛛に入れるって!


だから私達、仲間になるのよ!



私は呆気に取られて女を見ていた。

フェイタンも同様のようで、微動だにせず女を見つめている。



こいつ何言ってんの?



ワタシが知るか。
シャルはどこね。


遅れて駆け寄ったシャルは
いつもの薄っぺらい笑顔で女に近寄った。


レイラ!勝手に出ていくなよ。


シャル!
フェイタンは、まだ私に心を開いていないみたいなの。


シャルは私達を一瞥して、女の手を取った。


お前ら、仲良くしてやれよ。
レイラはしばらくここで暮らすんだから。



行こう、と行って背中を向ける2人を
私もフェイタンも今見たものが到底現実とは受け入れられず
ただ呆然と目で追っていた。




本拠地に入ると、フィンクスとコルトピは不機嫌そうな顔で中央に身を寄せていた。


お前、あれ見たか?


廊下を歩いていく2人を顎でしゃくって
フィンクスは眉間にシワを寄せる。


見たも何も、フェイタンに駆け寄って馴れ馴れしく話しかけてたよ。


私は資料の詰まったトートバッグをどさりと床に置き、コルトピの横に座った。


シャルは頭がイッたんじゃねぇか。

フィンクスの言葉を受けて、
コルトピは無言で此方を見る。


アイツ、操作されてるか?


フェイタンはフィンクスの吐き出した煙草の煙を避けるように
私の背後に座る。


どうだかな。
とにかく、異常だぜ、ありゃ。


シャルナークの悪口をそれぞれが一通り述べたところで
とりあえず始めよう、とのコルトピの言葉を皮切りに
私達は1時間遅れのミーティングを開始した。



みんな!


ケーキを焼いたわよ!!


声のする方を振り返ると
女がこちらに駆け寄ってくる。


後ろからアホヅラのシャルナーク、というおまけ付きだ。


この辺りが少し焦げちゃったけど
味は保証するわ!


女は皿に乗った、まだ湯気の立つそれを差し出す。
甘い匂いが鼻腔を突いた。


フィンクスはあからさまに苛立った様子で

シャル、こいつを地下牢に閉じ込めろ。

と放ったが
シャルは堪える様子もなく、食べるくらい、と微笑んだ。

私は立ち上がってシャルに向かう。


シャル、あんたが何考えてんのか知らないけど
私達を巻き込むのはルール違反でしょ?


シャルは首を竦めるだけで
何も返答しなかった。


ねえ、食べるくらい良いでしょ?
私のケーキ、本当に美味しいのよ。


フィンクスは背中を向けてそれを無視する。


失せるね。
ワタシたち、他人の施し受けるほど落ちぶれてないよ。


簡単に毒を口にするほど甘くもないよ。

私もフェイタンに付け加えた。


女は酷い、と泣き出し
皿を床に落として、泣き崩れる。


私達は今にも笑い出しそうだったが
シャルが腕を引いて、共々広場を出ていってくれたので
姿が見えなくなってから盛大に大笑いした。



見たか?あの顔


フィンクスは腹を抱えて苦しそうに言う。


アレで騙せると思ってんのかな。


私も笑い過ぎて、やっとのことで言葉にした。




日が暮れる前に、会議は終了した。

明日から取り掛かろう、とのことで簡単なプランを作成し、ノブナガのアドレスに転送しておいた。


解散して、連れ立って広場を後にするときに振り返ると
女の落としたケーキは
鳥が群がって突いていた。









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